世界中から大きな注目を集めた『攻殻機動隊』で知られる士郎正宗。緻密な作画と情報量の多いプロットでサイバーパンク作品を牽引してきた漫画家・イラストレーターです。
代表作『アップルシード』『ドミニオン』などの原稿や資料を通じて、士郎正宗の創作の軌跡と人物像に迫る初の大規模展が、世田谷文学館で開催中です。

世田谷文学館「士郎正宗の世界展~『攻殻機動隊』と創造の軌跡~」会場入口
幼少期から絵を描くことを志していた士郎は、一般的な子ども文化には馴染まず、独特な感性を持ったまま成長しました。
デザイン関係の仕事をしていた父の影響で美術書や高品質な画材に囲まれ、幻想画やアール・ヌーヴォーといった「異質」な作品に魅了されていきます。

「士郎正宗の創造の軌跡」
効率と仕上がりの美しさを追求した結果、独自の作画スタイルを築いた士郎。透過台や自作トーンを活用し、手作業とデジタルを柔軟に使い分けながら、各工程ごとの原稿を丁寧に保存しています。
現在は完全デジタル制作へと移行しつつも、アナログの感触を大切にし続けています。

「描き方 HOW TO DRAW」
『アップルシード』は、戦後の荒廃した世界での再生を描くSF作品。脳まで機械化されたサイボーグという過激な設定には当初批判もありましたが、作中ではあえて直接的な描写を避けるかたちで描かれています。
倫理的な問題を内包しつつ、技術の進歩と現実との背反を問いかける物語ですが、現在は出版社の事情により連載が中断されています。

「アップルシード」
『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』は『アップルシード』と同じ世界観を持ち、その約100年前を描いた作品です。戦争や災害、高齢化といった社会背景のもとで義体やAI技術が急速に発展し、人型機械が広く普及した社会が舞台となっています。
AIたちが人間社会に紛れ込み、自らのための機器を密かに生産・拡散しているという裏設定も存在し、草薙素子とAI「人形使い」のその後は別作品で描かれています。

「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」
「フチコマ」は、作者が影響を受けた多脚メカや美術作品をもとに生まれたAI搭載のロボット。もともとは物資や負傷者を運ぶ機械として構想され、「〜コマ」という名前が付けられました。
会話ができる愛嬌のある性格で、物語の中では単なる道具以上にキャラクターとしての存在感を放っています。

「フチコマ」
会場では、2026年に放送予定の新作アニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』も紹介。
シリーズ10作目となる本作は、新たな制作チームによる“第2世代型”とも言える意欲作です。

「新作アニメ」
士郎正宗の創作の背景にある思考と美意識、そして進化し続ける作品世界を、貴重な資料とともに体感できる展覧会。
その先見性と創造力に触れてみてはいかがでしょうか。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年4月11日 ]
©Shirow Masamune/KODANSHA
©Shirow Masamune/SEISHINSHA
©Shirow Masamune/「士郎正宗の世界展」製作委員会