20世紀にはじまった住宅をめぐる革新的な試みについて紹介する展覧会「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」が、国立新美術館ではじまりました。
1920年代以降、ル・コルビュジエ(1887–1965年)やルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(1886–1969年)などの名だたる建築家が探求した「快適な住まい」。展覧会では、住宅のあり方を変えた「衛生」「素材」「窓」「キッチン」「調度」「メディア」「ランドスケープ」という7つの視点で、モダン・ハウスの実験的な試みを紹介していきます。

「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」会場入口
会場は1階の企画展示室1Eと2階の企画展示室2Eに分かれて展示され、2階は無料エリアです。 1階では、14の住宅に関する模型や資料が展示されています。
展示は、それぞれを『島』に見立てて、2つの鑑賞ルートが提案されています。1つは、ひとつずつのテーブルを一周することで、その住宅の特徴や建築家の意図を理解する方法。2つ目は、関係が深い隣接の住宅やその建築家を比較しながら読み解く方法です。 ここでは、いくつかの建築作品を紹介します。

「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」国立新美術館 2025年 展示風景
アメリカと南アジアを拠点に活動したルイス・カーンは、近代建築にインスピレーションと精神的な価値を再導入しました。カーンは、家は人間の最も基本的な部屋の集合体であるという信念を追求。小さな森と小川に面した建物内には、吹き抜けの居間やベンチが一体となった大きな窓があり、自然光や風、外の風景を取り込んだ設計がされています。

「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」国立新美術館 2025年 展示風景
かつて紅茶農園だったブラジル・サンパウロの傾斜地に邸宅を設計したのは、リナ・ボ・バルディです。鉄やガラスを用いて構造体の軽やかさを表現しながら、美術品や民芸品を配置。熱帯植物の庭に囲まれた生命力溢れる空間を実現しました。

「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」国立新美術館 2025年 展示風景
藤井厚二の「聴竹居」は、京都に建てた5棟目の自邸です。藤井は、日本の気候風土と日本人のライフスタイルに合わせて、モダニズムの機能と数寄屋造りの技法を融合。家具や照明、絨毯、日用雑器など暮らしに必要なものをすべて自分でつくり、日本の住宅の理想形を目指しました。

「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」国立新美術館 2025年 展示風景

「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」国立新美術館 2025年 展示風景
展覧会の最大の見どころと言えるのは、2階の展示室にて設置されたミース・ファン・デル・ローエの「ロー・ハウス」プロジェクトの原寸大の展示です。いかに空間を風景と関連づけるのか、中庭のある住宅をいくつも構想してたミースは「ロー・ハウス」に関する多くの計画案を残していますが、実在する建物はありません。

ミース・ファン・デル・ローエ「ロー・ハウス」の原寸大展示プロジェクト
参考となる写真や映像のない中で、残された図面や資料をもとに制作された空間は、幅16.4m×奥行16.4mにも及びます。またこのプロジェクトの展示は、国立新美術館で初めてとなる、クラウドファンディングで募った資金から制作費用が充てられました。会場では、変化する照明も楽しめます。

ミース・ファン・デル・ローエ「ロー・ハウス」の原寸大展示プロジェクト

ミース・ファン・デル・ローエ「ロー・ハウス」の原寸大展示プロジェクト
隣のスペースでは、名作家具の数々を体感することができる「リビング・モダニティ today」を展開しています。カッシーナやカールハンセン、YAMAGIWAなどの企業ブースで、20世紀を代表する名作家具に直接触れることができます。

「リビング・モダニティ today」

「リビング・モダニティ today」
2階奥のスペースでは、名建築の「窓」を再現したVR体験を実施しています。天井高のあるガラス窓が特徴的なミース・ファン・デル・ローエの「トゥーゲントハット邸」と、水平連続窓で知られるル・コルビュジエの「ヴィラ・ル・ラク」の一部内観を再現。1人ずつの体験で時間は、15〜20分程度。巨匠たちによる理想の住空間を感じてみてはいかがでしょうか(日時:3月29日、3月30)。
展覧会は、9月に兵庫県立美術館へ巡回予定です。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2025年3月18日 ]