東洋陶磁の至宝、曜変天目。12~13世紀の中国・南宋時代に作られ、現存する3点すべてが日本に伝わり、いずれも国宝に指定されています。
その曜変天目を中心に、「黒」をテーマに中国・日本の黒いやきものや漆芸、刀剣などを紹介する展覧会が、静嘉堂@丸の内で開催中です。黒という色に宿る工芸美とその魅力に迫ります。

静嘉堂@丸の内「黒の奇跡・曜変天目の秘密」会場入口 曜変天目の顔出しパネルも
曜変天目は「天目茶碗」の一種。黒い釉薬と裾すぼまりの形が特徴で、北宋時代の中国で誕生し、鎌倉時代には禅宗文化とともに日本に伝来しました。
茶の湯の世界では、中国産の天目茶碗は「唐物天目」として珍重され、室町時代には「曜変」を筆頭に、「油滴」「建盞(けんさん)」「鼈盞(べっさん)」といった分類が行われるようになります。

重要文化財《油滴天目》 付属 花卉文堆朱天目台「新」銘 建窯 南宋時代(12~13世紀)明時代(15世紀)
展覧会では続いて、日本工芸における「黒」の美にも注目。漆塗りや、鉄を用いた刀剣や鐔(つば)といった金工品が取り上げられています。
黒漆は深い艶と色味を持ち、装飾を引き立てる力があります。鉄の黒は酸化被膜によるもので、「鉄味」とも呼ばれるその質感が鑑賞者を惹きつけます。

《太刀 銘 吉房》附 雲文漆蒔絵鞘打刀拵 一文字吉房 鎌倉時代(13世紀) 拵:江戸時代(19世紀)
東洋の黒いやきものの歴史は、約4000年前の中国・新石器時代の黒陶にさかのぼります。後漢時代には漆黒の釉薬が江南で完成し、生産は各地に広がりました。
宋代には天目茶碗をはじめとする黒釉の器が江南や華北で盛んに作られ、加飾技法も発展。清代には技術がさらに多様化しました。
一方、日本では鎌倉時代に天目茶碗が、桃山時代には黒樂茶碗が誕生し、現代までその伝統が受け継がれています。

(中央)《黒陶磨光文鼎》戦国時代(前4〜前3世紀) / (両脇)《黒陶磨光文豆》戦国時代(前4〜前3世紀)

《三彩足噛馬》唐時代(7〜8世紀)
中国で生まれ、日本に伝わり、国宝として守り継がれてきた曜変天目。
「曜変」とは何を意味し、どのような経緯で現代まで伝わってきたのか。その不思議な虹色の発色は、どのようにして生まれるのか…多くの謎を秘めています。
本展では、曜変天目(稲葉天目)を高台裏までじっくり鑑賞できるように展示。その神秘的な魅力を、余すところなく紹介しています。

国宝《曜変天目(稲葉天目)》建窯 南宋時代(12〜13世紀)

国宝《曜変天目(稲葉天目)》建窯 南宋時代(12〜13世紀)
黒という色に潜む、静謐で力強い美しさ。曜変天目をはじめとする東洋の名品が語りかけてくるその世界に、じっくりと身を浸してみてください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年4月4日 ]