8館で構成されるシグネチャーパビリオン。まずはその中から、宮田裕章(慶応義塾大学教授)、中島さち子(音楽家、数学研究者、STEAM 教育家)、福岡伸一(生物学者、青山学院大学教授)、小山薫堂(放送作家、京都芸術大学副学長)による4館をご紹介します。
Better Co-Being/宮田裕章
テーマ「いのちを響き合わせる」
会場中央にある「静けさの森」に設けられたパビリオンは、屋根も壁もない、自然と響き合う開かれた空間。風や光、雨といった自然現象そのものが演出となるこの場所には、「Better Co-Being=よりよく共に在る」という願いが込められています。
建築を手がけたのはSANAA。キュレーションには長谷川祐子が参加し、塩田千春、宮島達男、EIMといったアーティストも名を連ねるなど、アートファンにとっても見逃せない一館です。
体験の核となるのは、特殊な振動で触覚の錯覚を生み出す石「echorb(エコーブ)」とWEBアプリを活用したプログラム。15分ごとの予約制で、グループ単位のツアー形式で進行します。

Better Co-Being/宮田裕章

Better Co-Being/宮田裕章
いのちの遊び場クラゲ館/中島さち子
テーマ「いのちを高める」
創造と共鳴の場としてデザインされたパビリオン。遊びや学び、芸術、スポーツを通じて、生きるよろこびを分かち合い、いのち同士がつながることを目指しています。
建築のモチーフは「揺らぎ」。クラゲのように波打つ大屋根と、中央にそびえる「創造の木」を軸に、音や光が自然に生まれる空間が広がります。
アクセスもユニークで、丘の間をうねるように進むスロープを登ってたどり着く「いのちのゆらぎ場」は予約不要。さらに地下の予約制エリア「いのちの根っこ」では、暗闇の中で自分と向き合いながら、360度映像や生演奏による祝祭的な体験が待っています。
揺らぎと遊びを通じて、いのちの多様性と豊かさを身体で感じられるパビリオンです。

いのちの遊び場クラゲ館/中島さち子

いのちの遊び場クラゲ館/中島さち子
いのち動的平衡館/福岡伸一
テーマ「いのちを知る」
生物学者・福岡伸一が提唱する「動的平衡」という概念を体感できるパビリオンです。「動的平衡」とは、生物が常に分解と再構成を繰り返しながら秩序を保っている状態のこと。生命とは静的な存在ではなく、流れそのものだという視点が提示されます。
内部に入ると、まず目に飛び込んでくるのが「クラスラ」と名付けられた構造体。ジャングルジムのようなこの立体は、32万個ものLEDで構成されており、生命の進化や細胞の分裂を光の点滅でダイナミックに可視化します。暗闇の中、光だけが浮かび上がるインスタレーションは、38億年にわたる生命の歴史を立体的に体験させてくれます。
難解に見えるテーマながら、誰もが視覚的・感覚的に「いのちの流れ」を感じ取れる展示となっています。

いのち動的平衡館/福岡伸一

いのち動的平衡館/福岡伸一
EARTH MART/小山薫堂
テーマ「いのちをつむぐ」
食をテーマにしたパビリオン。『料理の鉄人』をはじめ数々の番組を手がけてきた小山薫堂が、「生きること=食べること」というシンプルで深いテーマに向き合います。
建物は、茅葺屋根を思わせるデザインで、日本の原風景を思い起こさせるような佇まい。内部は「いのちの売り場」と「みらいの売り場」の2エリアで構成され、それぞれ過去と未来、現在と未来をつなぐ食の体験を提供します。
ダイナミックなオープニング・エンディング映像とは対照的に、スーパーのような売り場形式が印象的で、特に子どもたちの視点に立って展示の高さなどにも配慮されています。
食がどこから来て、どこへ向かうのか。日常に寄り添うテーマだからこそ、大人にも子どもにも心に残る体験が待っています。

EARTH MART/小山薫堂

EARTH MART/小山薫堂
この4館はいずれも、いのちをテーマにしながらも、科学・芸術・食・哲学といった多様な切り口で構成されています。どこからまわっても発見がありますが、じっくり鑑賞するには時間の確保が不可欠。後篇の4館とあわせて、万博を味わい尽くす一日を計画してみてください。
→ 未来を体感!シグネチャーパビリオン徹底ガイド[2]河瀨直美、河森正治、落合陽一、石黒浩