毎年、カキツバタが咲くこの時期だけのお楽しみ。日本美術のアイコンともいえる、国宝《燕子花図屏風》を鑑賞できる特別展が始まりました。
財団創立85周年を記念した今回は、《藤花図屏風》と《夏秋渓流図屏風》をあわせて、3種の6曲1双金屏風を楽しむことができます。

根津美術館「国宝・燕子花図と藤花図、夏秋渓流図」会場入口
展覧会はそれぞれの屏風を中心に、周辺作品を紹介する3章構成となっています。
円山応挙は、「写生」に基づく革新的な画風を追求し、後の円山・四条派の装飾的な画風とは一線を画しました。弟子たちと比較することで、その革新性がより際立ちます。
山口素絢の《草花図襖》は、秋の草花を中心にした、とても華やかな作品です。素絢は応挙の高弟で、かつて京都の町家を飾っていたと考えられています。

(手前)重要美術品《草花図襖》山口素絢筆 江戸時代 文化10年(1813)根津美術館蔵
重要文化財《藤花図屏風》は応挙の壮年期を代表する作品で、装飾性と写生表現が融合した革新的な作風が特徴です。
細部には応挙独自の技法が用いられ、単なる写実にとどまらない豊かな表現が見られます。

重要文化財《藤花図屏風》円山応挙筆 江戸時代 安永5年(1776)根津美術館蔵
俵屋宗達は琳派の祖。重要美術品《桜下蹴鞠図屏風》は、宗達の工房作とされます。右隻は桜の幹と人物で縦の動きを、左隻は垣根の斜線や水際の曲線で横の広がりを生み、構図の対照が見事です。
幾何学的な構成は、後の《燕子花図屏風》にも受け継がれていきます。

重要美術品《桜下蹴鞠図屏風》江戸時代 17世紀 根津美術館蔵
国宝《燕子花図屏風》は尾形光琳の代表作で、金地に青と緑のみで燕子花を描いた意匠性の高い作品です。
『伊勢物語』に登場する八橋の風景を描いたともされ、構図の対照と均衡が計算されています。
ふっくらとした花弁からは、豊富な絵具使いも見て取れます。

国宝《燕子花図屏風》尾形光琳筆 江戸時代 18世紀 根津美術館蔵
《梟鶏図》は、京狩野家二代目・山雪による作品です。右幅には湾曲する松に夜行性の梟を、左幅には斜めに画面を走る屋根に朝を告げる鶏を配しています。
梟のとぼけた表情や鶏の不機嫌そうな目つき、ウニのような松葉など、独創的な水墨表現が光ります。

《梟鶏図》狩野山雪筆 江戸時代 17世紀 根津美術館蔵
《夏秋渓流図屏風》は、鈴木其一の作品では唯一の重要文化財指定作品。渓流が流れる檜林を背景に、右隻に夏、左隻に秋の情景を描いています。
ねっとりとした水の表現や過剰な点苔、不自然な構図の山百合や蝉など、異様さを感じさせる独特の描写が印象的です。

重要文化財《夏秋渓流図屏風》鈴木其一筆 江戸時代 19世紀 根津美術館蔵
日本美術の粋を極めた屏風の数々が一堂に会する、ゴージャスな展覧会。この時期ならではの特別な展示をお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年4月11日 ]