IM
    レポート
    ピュリスムを超えて。自然から生まれた建築と芸術 ― 「ル・コルビュジエ 諸芸術の綜合 1930-1965」(レポート)
    パナソニック汐留美術館 | 東京都
    建築、絵画、彫刻などが交錯。ル・コルビュジエの多面的な芸術活動を紹介
    自然への関心や「牡牛」シリーズなどに着目。晩年の活動に至るまでの進化
    近代建築を超えた詩的で哲学的な理想。生涯を通じ「諸芸術の綜合」を探求

    近代建築の巨匠として知られるル・コルビュジエ(1887–1965)。その建築作品群は世界遺産にも登録されていますが、彼は35歳頃より画家として活動を始め、晩年まで絵画や彫刻にも情熱を注いでいました。

    現在、パナソニック汐留美術館では、彼の「諸芸術の綜合」という活動後期の理念に焦点を当てた展覧会「ル・コルビュジエ 諸芸術の綜合 1930-1965」が開催されています。建築、絵画、彫刻など、彼の多彩な創作活動を通じて、その独創的な美の追求が紹介されています。


    パナソニック汐留美術館「ル・コルビュジエ 諸芸術の綜合 1930-1965」会場より 第1章「浜辺の建築家」
    第1章「浜辺の建築家」


    1930年代、ル・コルビュジエは自然界への関心を深め、海岸で貝殻や流木、骨片などの自然物を収集しました。彼はこれらを「詩的反応を起こすオブジェ」と呼び、創作の着想源としました。

    初期のル・コルビュジエは、画家のアメデエ・オザンファンとともにピュリスムを提唱。単純化された形態や構成、機械の美を重視し、視覚的秩序を追求した芸術運動でした。

    ただ、1930年代以降のル・コルビュジエは機械万能主義から離れ、自然科学的関心や自然界の秩序に目を向けるようになっています。同時代のジャン(ハンス)・アルプやフェルナン・レジェも、自然物を創作の中心に据えた表現を探求しており、工業化と自然の関係を模索する芸術運動が広がっていきました。


    パナソニック汐留美術館「ル・コルビュジエ 諸芸術の綜合 1930-1965」会場より 第1章「浜辺の建築家」
    第1章「浜辺の建築家」


    1950年代以降、ル・コルビュジエは「諸芸術の綜合」をテーマに活動を展開しました。絵画、彫刻、タペストリー、建築などを統合し、人間の全感覚を満たす詩的な環境を創出しようと試みたのです。

    家具職人ジョセフ・サヴィナとの木彫作品は「音響的形態」と名付けられ、その曲線美はロンシャンの礼拝堂など建築作品に応用されました。これらは彫刻を超え、空間との調和を意識した造形としても評価されています。


    パナソニック汐留美術館「ル・コルビュジエ 諸芸術の綜合 1930-1965」会場より 第2章「諸芸術の綜合」
    第2章「諸芸術の綜合」


    晩年、ル・コルビュジエを象徴する「牡牛」シリーズが誕生しました。インド滞在中に着想を得たこのシリーズは、過去の静物画を90度回転させる偶然の発見から始まりました。写実性を排したこの作品群では、牡牛が象徴的な「型」として機能し、絶えず変化する造形が展開されています。

    本展では、未完の作品を含む三連画が展示され、彼の表現の集大成を見ることができます。動物的な痕跡をほのかに残しつつも象徴性を強調したこれらの作品は、彼の内省的で詩的な世界観を浮き彫りにしています。


    パナソニック汐留美術館「ル・コルビュジエ 諸芸術の綜合 1930-1965」会場より 第3章「近代のミッション」
    第3章「近代のミッション」


    戦後、ル・コルビュジエはインドのチャンディガール新州都建設プロジェクトに携わり、その間に論考「やがてすべては海へと至る」を執筆しました。この詩的な文章では、輸送網や情報化社会の到来を予見し、新しい時代の可能性を描いています。

    また、ブリュッセル万博では最新技術を駆使したマルチメディア作品を発表し、映像や音響、建築を融合した「諸芸術の綜合」の集大成を示しました。

    1965年、ル・コルビュジエは海水浴中に死去。その最期は、この論考のタイトルと象徴的に結びついています。


    パナソニック汐留美術館「ル・コルビュジエ 諸芸術の綜合 1930-1965」会場より 第4章「やがてすべては海へと至る」
    第4章「やがてすべては海へと至る」


    ル・コルビュジエの活動は建築家の枠を超え、詩的で哲学的な理想を追求するものでした。ル・コルビュジエが生涯を通じて探求した「諸芸術の綜合」の世界を体験し、近代建築の先駆者としての意義を再認識させる貴重な展覧会です。

    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年1月10日 ]

    *本展は、ル・コルビュジエ財団の協力のもと開催されます

    第2章「諸芸術の綜合」
    第2章「諸芸術の綜合」
    会場
    パナソニック汐留美術館
    会期
    2025年1月11日(土)〜3月23日(日)
    もうすぐ終了[あと14日]
    開館時間
    土・日曜・祝日は日時指定予約制
    平日は予約不要

    午前10時~午後6時(ご入館は午後5時30分まで)
    ※2月7日(金)、3月7日(金)、14(金)、21(金)、22(土)は夜間開館 午後8時まで開館(ご入館は午後7時30分まで)
    休館日
    水曜日(ただし3月19日は開館)
    住所
    〒105-8301 東京都港区東新橋1-5-1  パナソニック東京汐留ビル4階
    電話 050-5541-8600(ハローダイヤル)
    公式サイト https://panasonic.co.jp/ew/museum/
    料金
    一般:1,200円、65歳以上:1,100円、大学生・高校生:700円、中学生以下:無料 
    展覧会詳細 「ル・コルビュジエ 諸芸術の綜合 1930-1965」 詳細情報
    おすすめレポート
    学芸員募集
    明石市立文化博物館 学芸員募集中! [明石市立文化博物館]
    兵庫県
    芦屋市立美術博物館 学芸員(歴史・教育担当)募集中! [芦屋市立美術博物館]
    兵庫県
    【新卒/経験者OK】都内環境啓発施設、常勤スタッフ(コーディネーター)募集中! [武蔵野市環境啓発施設「むさしのエコreゾート」、エコギャラリー新宿(新宿区立環境学習情報センター・区民ギャラリー) など]
    東京都
    公益財団法人日本博物館協会 事業部門マネージャーの募集 [公益財団法人日本博物館協会]
    東京都
    吉村昭記念文学館 学芸員募集 [荒川区地域文化スポーツ部ゆいの森課(吉村昭記念文学館)]
    東京都
    展覧会ランキング
    1
    神戸市立博物館 | 兵庫県
    大ゴッホ展 夜のカフェテラス
    開催まであと195日
    2025年9月20日(土)〜2026年2月1日(日)
    2
    東京ステーションギャラリー | 東京都
    生誕120年 宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った
    もうすぐ終了[あと7日]
    2025年1月25日(土)〜3月16日(日)
    3
    堺 アルフォンス・ミュシャ館(堺市立文化館) | 大阪府
    特別展「ミュシャ 謎の絵画」
    開催まであと42日
    2025年4月20日(日)〜8月17日(日)
    4
    国立西洋美術館 | 東京都
    西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで
    開催まであと2日
    2025年3月11日(火)〜6月8日(日)
    5
    東京都美術館 | 東京都
    ミロ展
    開催中[あと119日]
    2025年3月1日(土)〜7月6日(日)