オンラインゲームの刀剣乱舞から火がついて、若い女性からも熱い視線を集めるようになった刀剣。日本における刀剣の文化は長い歴史を誇り、さまざまな名刀が今日まで伝えられています。
由緒正しい神社や崇敬を集めてきた寺院ゆかりの貴重な刀剣を一堂に集めて紹介する展覧会が、サントリー美術館で開催中です。
サントリー美術館「刀剣 もののふの心」会場入口
図録の収録順とは異なりますが、会場は7つのエリアによる構成。「絵画に見るもののふの姿」からはじまります。
武家のイメージといえば、合戦に赴く甲冑姿。中世の合戦絵巻には、甲冑姿の武家が数多く描かれています。
《石山寺縁起絵巻》第6巻26段は、鎌倉幕府重臣・掃部頭中原親能が、謀反の輩を討伐する前に石山寺に参詣したところ、寺の加護により無事に平定に成功したという霊験譚です。
「絵画に見るもののふの姿」 谷文晁《石山寺縁起絵》サントリー美術館[展示期間:9/15~10/11、場面替有]
続いて「祈りを託されたと剣と刀 古社寺伝来の刀剣」。武器として生まれた刀剣ですが、その能力は身を守り、世の安寧を祈るものとして、人々の信仰を集める存在にもなりました。
京都・泉涌寺の重要文化財《太刀 銘 大和則長》は、大和鍛冶の特徴を有した強健な姿の太刀。後西天皇ゆかりの品と伝わりますが、それ以前の詳しいことは分かっていません。
「祈りを託されたと剣と刀 古社寺伝来の刀剣」 (左奥から)重要文化財《太刀 銘 大和則長》京都・泉涌寺[全期間展示] / 重要文化財《太刀 菊御作》京都国立博物館[展示期間:9/15~9/27]
次は「武将が愛した名刀 武士と刀剣」。現代に伝わる刀剣の中には、著名な武将がかつて所持していたとされるものも少なくありません。
重要文化財《太刀 銘 □忠(名物膝丸・薄緑)》は、「髭切」とともに清和源氏が代々継承した名刀「膝丸」と伝わります。
腰元で反る太刀姿で、製作者は古備前派の近忠、または同派の実忠、家忠などが候補となります。
「武将が愛した名刀 武士と刀剣」 (手前)重要文化財《太刀 銘 □忠(名物膝丸・薄緑)》京都・大覚寺[全期間展示]
続いて「もののふの装いと出で立ち 甲冑武具と刀装具」。制作技術と戦いの様式の変化から、甲冑のスタイルは時代とともに変わっていきました。合戦を描いた絵巻や屏風でも、もののふの姿には時代性が見られます。
ここでは刀剣の拵や鍔、目貫、小柄などの刀装具にも注目。染織、漆工、金工など、当時の最先端をゆく精巧な工芸技術を駆使した刀装具からは、その刀剣に対する所有者の想いも感じる事ができます。
「もののふの装いと出で立ち 甲冑武具と刀装具」 (左手前)重要文化財《薙刀直シ刀 無銘(名物骨喰藤四郎)》京都・豊国神社[全期間展示] / (左奥から)《朱漆塗矢筈札紺糸素懸威具足 伝豊臣秀次所用》サントリー美術館[展示期間:9/15~10/11] / 《黒韋威胸赤白腹巻》京都国立博物館[展示期間:9/15~10/11] / 重要文化財《紺糸威胴丸 兜・大袖付》京都・建勲神社[展示期間:9/15~10/11] / 《色々糸威鎧》[全期間展示]
階段を下がると、吹き抜けのエリアは「祭礼と刀剣 祇園祭礼図を中心に」。祭礼の場においても、邪気をはらうシンボルとして刀剣が用いられます。祇園祭礼の山鉾巡行を描く画中には、壮麗な長刀鉾が描かれています。
会場で山鉾のシルエットとともに展示されているのは薙刀です。祇園祭の山鉾巡行では、先陣を切る長刀鉾の鉾頭として、室町時代に後三条長吉が制作した薙刀が現存しますが、そこから150年後の江戸時代に製作されたものです。
「祭礼と刀剣 祇園祭礼図を中心に」 (左手前)《長刀 銘(裏菊紋)和泉守藤原来金道/(菊紋)大法師法橋来三品栄泉 延宝三年二月吉日》長刀鉾保存会[全期間展示] / (右奥)《日吉山王祇園祭礼図屛風》サントリー美術館[展示期間:9/15~10/11]
続いて「躍動するもののふのイメージ 物語絵と武者絵」。サントリー美術館が所蔵する《酒伝童子絵巻》は、室町時代に狩野元信が描いた絵巻です。
酒呑童子物語は、源頼光と家来の四天王、藤原保昌らが八幡・住吉・熊野の諸神の加護を得て、鬼神・酒伝童子を退治するストーリー。鬼の棲家の違いで丹波大江山と近江伊吹山とする二系統に分かれますが、本絵巻は伊吹山系のなかで現存最古という貴重な作品です。
今回が重要文化財指定後の修復を経た状態の初めての公開となります。
「躍動するもののふのイメージ 物語絵と武者絵」 画/狩野元信 詞書/近衛尚通定 法寺公助 青蓮院尊鎮 重要文化財《酒伝童子絵巻》(部分)サントリー美術館[全期間展示、場面替有]
最後は「絵画に見るもののふの暮らし 武家風俗画の世界」。戦国時代の武家は戦いに明け暮れますが、江戸時代に天下がおさまると、実戦の場面は激減します。ただ、刀剣や甲冑は武家の根幹であり、太平の世においても伝えられていきました。
江戸時代に描かれた《職人尽図屛風》は、各扇に職人の絵を一図ずつ貼付した屏風です。さまざまな仕事がありますが、刀剣では研師や鐘師、弓矢では弓師や矢細工師、他にも甲冑師、馬具師、革師などの姿が見られます。
「絵画に見るもののふの暮らし 武家風俗画の世界」 《職人尽図屛風》サントリー美術館[全期間展示、場面替有]
シルバーの表紙がとてもカッコいい図録もおすすめの本展、展示替えがかなり多いので、ご注意ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年9月14日 ]