1996年1月、千葉市美術館は開館記念展の第2弾として「Tranquility−静謐」展を開催しました。同展の招待作家のひとり杉本博司は、そのとき《海景》シリーズ18点を展示し、展覧会終了後それらは当館のコレクションに収蔵されました。千葉市美術館では、本年11月に開館20周年を迎えるにあたり、再び杉本を招待し、個展を開催いたします。
千葉市美術館は、現代美術と日本の近世絵画・版画を活動の柱とするユニークな美術館です。一方で古美術商の経験を持つ杉本博司も、日本美術に大変造詣が深く、三十三間堂の千体仏を写した《仏の海》(1995)や《松林図》(2001)など、日本の伝統美を自身の写真作品に取り入れてきました。また2003年より世界各地を巡回した展覧会「歴史の歴史」では、自らコレクションした古美術品を自作と組み合わせたインスタレーションも試みています。現代美術の世界で古きものに新たな生命を注ぎ続ける杉本は、まさに当館の20周年記念展にふさわしい作家と言えます。
「趣味と芸術」では、平安から江戸時代の古物を中心に、西洋伝来の品々、昭和の珍品をも含む杉本コレクションを使い、作家自ら27の床のしつらえをつくりあげます。これらは『婦人画報』で連載中の「謎の割烹 味占郷」のなかで、杉本が各界の著名人をもてなすために、毎回そのゲストにふさわしい掛軸と置物を選んで構成した床飾りを再現したものです。同時代の美術品を組み合わせたしつらえもあれば、17世紀の西洋版画を自ら軸装した《レンブラント天使来迎図》のかたわらに江戸時代初期の《織部燭台》を配したり、昭和の建築家白井晟一の書の脇に奈良時代の《百万塔》を置くといった、見るものの意表を突くような斬新なしつらえもあります。杉本は、「趣味」として蒐集した古今の名品・珍品を組み合わせることで、新たな「芸術」を生み出そうとしているのです。
「今昔三部作」では、杉本の代表作というべき3つの写真シリーズ、《ジオラマ》(1975- )、《劇場》(1975- )、《海景》(1980- )を、ニューヨークの杉本スタジオからお借りした16点の大判プリントにより展観します。80年代から90年代初頭にかけて、杉本はこの三部作により世界的な名声を得ました。新たな写真シリーズを次々と発表していった90年代中頃以降も、三部作の制作は続けられてきました。今回の展示では、各シリーズとも初期作から最新作までを含むため、杉本自身により「今昔三部作」と題されています。幅4mを超えるジオラマシリーズの最新作《オリンピック雨林》(2012)や、縦版型による劇場シリーズの最新作《テアトロ・デイ・ロッツィ、シエナ》(2014)も日本初公開されます。
「趣味と芸術」で現代美術の枠を超えて活動を続ける現在の杉本をお見せし、「今昔三部作」では20年前開館記念展「Tranquility」に参加したころの杉本をお見せすることで、この作家の魅力と奥行きを充分に味わっていただけると思います。