仮想空間と現実世界が接続し、人工知能(AI)が飛躍的に発展するなか、新しいテクノロジーは私たちの日常生活に急速に浸透し、とりわけコロナ禍は仮想空間における活動を加速させました。また、顧みればテクノロジーとアートは、コンピューター・アート、ビデオ・アートなどの歴史のなかで常に併走してきました。近年のビデオゲームやAIの発展がアーティストの創造活動に全く新しい可能性をもたらす一方で、生成AIの登場は、人類の創造力にとっての脅威ともなっています。こうした動向は、現代アートの文脈においても大きく注目されています。
「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」展では、ゲームエンジン、AI、VR、AR(※1)などのテクノロジー、さらにはアルゴリズムや生成AIなど人間の創造性を拡張するようなテクノロジーを採用した現代アートを紹介します。そこではデジタル空間上のさまざまなデータが素材となった新しい美学やイメージメイキング(図像や画像を作ること)の手法、不特定多数の他者とともにインタラクティブに創造された作品、アバターやキャラクターなどジェンダーや人種という現実社会におけるアイデンティティからの解放、といった特性が見られます。ただ、これら新しい方法を採用しながら、アーティストの表現の根幹では現代世界が抱える環境問題、歴史解釈、ヒューマニティ(人間らしさ)、倫理、多様性といったグローバルな課題が掘り下げられています。
本展は、「マシン」(※2)とアーティストが協働する作品や没入型の空間体験などを通し、「ラブ(愛情)」、共感、高揚感、恐れ、不安など私たちの感情を揺さぶる、人類とテクノロジーの関係を考えるプラットフォームとなります。現実と仮想空間が重なり合う空間で、不確実な未来をより良く生きる方法をともに想像してみましょう。
※1 VR(Virtual Reality:仮想現実)、AR(Augmented Reality:拡張現実)
※2 ここで言う「マシン」は従来の重工業的な「機械」のイメージではなく、コンピュータおよびハードウェアの総称としての「マシン」を主に意味する。20世紀初頭には機械のスピード感やダイナミズムが象徴する新たな時代を「マシン・エイジ」と呼び、多様な芸術分野で支持された。本展では21世紀に広く浸透したコンピュータやインターネットに深く関わる新しい「マシン」時代のアートに注目する。なお、「ゲームエンジン」はハードウェアではなく、コンピュータゲーム制作に必要な機能をまとめたソフトウェアをさす。
(公式サイトより)