60年以上前、ナム・ジュン・パイクがビデオアートを始めてから、テクノロジーとアートは深く結びついてきました。その進化は、インターネットや生成AIの登場によって新たな次元へと突入しています。
森美術館で開催中の展覧会「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」では多彩な分野で活躍するアーティスト、クリエイター12組が参加。生物学、地質学、哲学、音楽、ダンス、プログラミングなどとのコラボレーションを通して生まれた作品が並びます。
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森美術館「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」会場入口
テクノロジーがもたらす新しい視点から、挑戦的なテーマに挑んだ作品が並ぶ会場。目についたものをご紹介します。
ビープル(マイク・ウィンケルマン)は、風刺的なデジタルアートで知られるアーティストです。2007年から毎日作品を公開する「エブリデイズ」を継続し、NFT作品《エブリデイズ:最初の5000日》が高額落札され注目を集めました。
《ヒューマン・ワン》は、彼にとって初の物質的作品で、バーチャルとリアルを融合させたインスタレーションです。絶え間なく変化するデジタル風景の中を歩き続ける人物が描かれ、デジタル化する人間の存在を象徴しています。作品は生涯にわたりアップデートされます。
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ビープル《ヒューマン・ワン》2021年-
キム・アヨンは、地政学や神話、テクノロジーを融合させた「スペキュラティブ・フィクション」を基に、ビデオやVR、ゲームを制作するアーティストです。
《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》は、女性配達員が都市で他者と接触せず最短距離で配達する物語。ソウルの実写映像とスキャンデータを組み合わせ、歪んだ異次元空間と現実を融合させています。会場では実際にプレイ可能なシミュレーションも展示されています。
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キム・アヨン《ゴースト・ダンサーズB》2022年 / キム・アヨン《デリバリー・ダンサーズ・シュミレーション》2022年
ルー・ヤン(陸揚)は、SFやアニメ、ゲームの要素を取り入れ、スピリチュアルで哲学的な映像インスタレーションを制作しています。仏教思想や最新テクノロジー、大衆文化を融合させ、人間の身体や意識の限界について問いかけます。
《DOKU》シリーズは、大乗仏教の「独生独死」に着想を得た作品。自身のデジタル・アバターが仏教世界を旅し、「生と死」「真実と幻想」などのテーマを探求します。壮大なビジュアルの背景には、世界に調和をもたらしたいという作家の願いが込められています。
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ルー・ヤン《独生独死̶自我》2022年
ヤコブ・クスク・ステンセンは、3Dアニメーションやゲーム技術を駆使し、自然現象を仮想シミュレーションで表現するアーティストです。
《エフェメラル・レイク(一時湖)》は、周期的に現れる湖をテーマにした没入型インスタレーションです。デス・バレーとモハーベ砂漠でのフィールドワークを基に、映像や音響、ガラス彫刻を組み合わせ、変化し続ける神秘的な空間を創り出しました。
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ヤコブ・クスク・ステンセン《エフェメラル・レイク(一時湖)》2024年
アドリアン・ビシャル・ロハスは、彫刻、ドローイング、映像、文学、パフォーマンスを通じて、人類の未来や絶滅後の世界を探求するサイトスペシフィックなインスタレーションを制作しています。
「想像力の終焉」シリーズは、ロハスが開発した「タイムエンジン」ソフトウェアを使用し、極端な環境や社会・政治的条件が彫刻に与える影響をシミュレーションする作品。完成した彫刻は時の流れを感じさせつつ、生命力や物質的存在の可能性を探ります。
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アドリアン・ビシャル・ロハス「想像力の終焉」シリーズより 2023年
展覧会には、4つのミニゲームを楽しめる「インディー・ゲームセンター」も設けられています。
「私と他者」という関係性に焦点を当てたゲームが紹介され、他者との違いや関係性、コロナ禍の影響、戦争や出会いの喜びをテーマにした作品が集まっています。
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インディー・ゲームセンター
テクノロジーがアートに与える新たな可能性を深く掘り下げ、私たちに未だ見ぬ未来のビジョンを提示する展覧会。アートの未来とその可能性に触れてみてはいかがでしょうか。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年2月12日 ]