展示風景
2023年度は京都国立近代美術館60周年記念として「Re:スタートライン 1963-1970/2023」、「走泥社再考 前衛陶芸がうまれた時代」、「京都画壇の青春―栖鳳、松園につづく新世代たち」と、京都国立近代美術館ならではの展覧会が開催されてきました。そして締めくくりとなるのが「小林正和とその時代―ファイバーアート、その向こうへ」です。
2024年に生誕80年、没後20年となる回顧展では小林の代表作や関連資料、親交のあった17名の作家作品に加え約100点が紹介され、初期から晩年まで小林正和の足跡をたどることができます。
展示風景
《KAZAOTO-87》(一部)1987年
1960年代以降、アメリカやヨーロッパにおいて従来のテキスタイルの概念を越えるような作品が多く発表されました。金属や鉱物などの素材の取り込み、平面から立体、空間へと展開、用途を前提としていない作品群はファイバーアートと呼ばれ、そしてスイスのローザンヌで1962年から開催された国際タペストリー・ビエンナーレによって世界へと広がっていったのでした。
展示風景 小林と同時期に活躍した作家作品とともに
小林正和は京都市立美術大学で漆工を学んでいましたが、色彩表現をやりたいと川島織物で考案(デザイン)部に就職します。帯やインテリアのデザインをしていましたが、糸に面白味を感じ、独自で織りの勉強を始めます。
第6回国際タペストリー・ビエンナーレへの入選を皮切りに、国際テキスタイル・トリエンナーレ(ウッヂ、ポーランド)や国際テキスタイルコンペティション(京都)などの活躍を通して国際的に高く評価されるようになったのでした。
《吹けよ風》1972年
展示会場には小林の名世界に広く知られるきっかけとなった《吹けよ風》が展示されています。風が吹き波のたつ様子が感じられます。たゆみの部分が2重になっているのですが、それ以上の深い奥行を思わせます。
《W³》1976年
2019年同館で開催された「京都の染織 1960年代から今日まで」展ではじめてみた《W³》。その時受けた印象が今も残っていたほど。改めて目の前にしても美しさに溜息がでます。たゆんだ部分は風、波、時間……「流れ」を感じますが、糸という自在でもありながらコントロールするのが難しい素材をまとめあげている技術が「強さ」となって加算されています。
作品のためのドローイングなど
《Spirit of the Tree(一本の気)》1987年
《Spirit of the Tree(一本の気)》は、丸太の左右に切れ込みをいれ、1本の絹糸を張りつけた作品です。切れ込みを細い木が弓のように反っています。近づくと糸が切れてしまいそう、そう思うぐらいに緊張感が漂い、体に響くような鑑賞感覚です。
展示風景
小林の魅力は作品だけでなく、マルチタレントで自由な活動をしていたこともあげられます。大学での勤務のほか、京都に「ギャラリーギャラリー」を1981年に開設します。壁も天井も真っ白に塗られ、自然光のみの照明。画廊主も常駐せず、ガラス越しに作品をみることができる、小林にとっても実験的な場所をつくったのでした。(1988年川嶋啓子さんに引き継がれ2022年閉廊)ギャラリーのDMや展示風景なども紹介されています。
《MIZUOTO-99(水音-99)》1999年頃
小林尚美《WORK 98 #106》1999年
現代アートでもファイバーを素材としたものはありますが、それらは表現の手段として糸などを使用した作品です。一方、小林正和、ファイバーアート作家は素材、技法をもとに表現する、作品へのアプローチが全く異なります。その違いも本展を鑑賞する際のポイントかと思います。2000年以降、ファイバーアートの展覧会は激減しているそうです。ファイバーアートとはどのようなものなのか、じっくりと向き合ってみてはいかがでしょうか。
島田清徳《遠との共鳴 記憶の波音-k-2024》2023年
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2024年1月5日 ]
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