聖武天皇の遺愛の品々を中心に、調度品、楽器、遊戯具、武器・武具、文房具、仏具、文書、染織品など約9,000件が今日まで伝わる正倉院宝物。
これまでに製作された数百点におよぶ正倉院宝物の再現模造作品の中から、選りすぐりの逸品を一堂に集めて公開する展覧会が、サントリー美術館で開催中です。
サントリー美術館「よみがえる正倉院宝物」会場入口
会場はジャンル毎の構成で、第1章「楽器・伎楽」からはじまります。
「螺鈿紫檀五絃琵琶」は、聖武天皇所縁の宝物の目録である『国家珍宝帳』にも記載されている、正倉院宝物を代表する優品です。
平成23〜30年にかけて模造が製作された際には、華麗な装飾だけでなく、実際に演奏が可能な楽器として再現された事もあり、8年の歳月を費やしました。
《模造 螺鈿紫檀五絃琵琶》平成23〜30年(2011〜18) 宮内庁正倉院事務所
続いて第2章は「仏具・箱と几・儀式具」。奈良時代は仏教による護国体制が敷かれたため、大仏を擁する東大寺では壮麗な儀礼と仏前への献物が盛んに行われました。
《緑地彩絵箱》は、仏への供物を収めた箱です。杉材製で、外面には緑色の地に赤、橙、紫、黄、白などで花文や蝶を描写。斑紋を描いた縁は玳瑁(たいまい)に、唐草文を墨描した床脚は透彫金具に似せています。
《模造 緑地彩絵箱》明治時代(19世紀)東京国立博物館[展示期間:1/26~2/21]
第3章は「染織」。中国で始まり、大陸の東西に広まった養蚕と絹織物。奈良時代の日本では全国的に養蚕が行われていました。
《赤地唐花文錦》は、6色の緯糸(ぬきいと:織物の横方向に通っている糸)で花文を織り表した、豪華な赤地の錦です。奈良時代に盛行した唐花文様で、最も正倉院らしい意匠のひとつです。
《模造 赤地唐花文錦》株式会社川島織物 平成14年(2002)宮内庁正倉院事務所
第4章は「鏡・調度・装身具」。多種多様な正倉院宝物のなかでも、鏡・薫炉・厨子・双六局などの調度品や、帯・刀子などの装身具は、極めて高い技術でつくられている事もあり、宝物を代表する存在といえます。
《銀平脱合子》は、碁石を収める容器。蓋表には、樹葉をくわえた2羽の鸚鵡がデザインされています。原宝物が素地が巻胎(けんたい:テープ状の材を巻いて成形する技法)であるため、模造品も檜材で同様に製作されました。
《模造 銀平脱合子》北村昭斎 平成4年(1992)宮内庁正倉院事務所
第5章は「刀・武具」。正倉院には古代の武器や武具も数多く伝わります。奈良時代は争乱が続き、正倉院から武器が出蔵されることもありました。
《金銀荘横刀》は木製黒漆塗りの鞘に、金銀の平脱技法で走る霊獣などを表したもの。花文を線刻した金銅製金具も要所に配されています。
再現模造作品は、明治8年(1875)に奈良博覧会社が正倉院宝物を模して製作した大刀・横刀のうちの1口です。
《模造 金銀荘横刀》奈良博覧会社 明治8年(1875) 奈良国立博物館
最後は第6章「筆墨」。東大寺写経所が伝えた帳簿群を中心に、正倉院文書は660巻余りに及びます。他で不要になった紙の裏を使った例が多いことから、多種多様な文書が残っています。
《続修正倉院古文書 第二十巻〔写経生請暇解〕》は、8世紀後半に東大寺写経所で働いていた写経生たちの休暇願いを集めたもの。汚れた衣服を洗うためや、母の看病のためなど、休暇の理由はさまざまです。
眩いばかりの工芸品が並ぶ会場で、異彩を放つユニークな資料です。
《模造 続修正倉院古文書 第二十巻〔写経生請暇解〕》国立歴史民俗博物館 昭和62年(1987) 宮内庁正倉院事務所
1,300年近くにわたり、多種多様かつ国際色豊かな品々が、良好な保存状態で伝えられてきた正倉院宝物。
毎年秋に奈良で開催される「正倉院展」で一部が展覧されていますが、特に東京ではなかなか目にする事はできません。
再現された天平の美を間近で堪能できる、またとない機会です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年1月25日 ]