長野県信濃美術館が長野県立美術館として今年4月に新築オープンしました。善光寺など周囲の環境と調和する「ランドスケープ・ミュージアム」として生まれ変わった建物とともに、ファッションブランド「Mame Kurogouchi 」がスタッフユニフォームを担当したことも話題となりました。
UNIQLOとのコラボレーション、テレビドラマの主人公が着用し話題になるなど日本を代表するブランド「Mame Kurogouchi」。今年10周年を迎えることを記念し、美術館初の単独展覧会が同館で始まりました。デザイナーである黒河内真衣子の創作の源を10年間のコレクションを通し紹介しています。
展示風景「私小説」のパートより 2017年春夏、秋冬「Timeless」
「曲線」「夢」「旅」「私小説」「色」など、ブランドを構成する10のキーワードから成る本展。「刺繍」のパートでは、ドローイングや工場への指示が書きこまれた図案などが公開されています。細かな作業に驚きつつ、デザイナーという仕事を垣間見た気分です。
隣には完成された洋服が飾られています。凝った刺繍には、それ以上のもの—費やされた時間、労力―が宿り、服にパワーを与えています。
ドローイングや工場への指示書など
展示風景
「クラフト」では、九谷焼や竹籠、こぎん刺し着物など伝統技法から学び、「Mame Kurogouchi」に落とし込んだ洋服がそれぞれ展示されています。黒河内が何をどのように見て、どこに魅かれ、何を表現しようとしたのかを知ることができます。
2020年秋冬「Embracing」と加藤藤昇斎「笑籠」(昭和時代)
2020年秋冬「Embracing」の部分
2015年秋冬「Passing」と古作こぎん刺し着物(幕末から明治時代)有限会社弘前漕ぎん研究所蔵
本展の一番の見どころとなるのは、中央に並べられた「ノート」。旅先での記録、植物のデッサンやポラロイド写真、ふと感じたことをそのまま書いた日記のページもあれば、ブランドへの想いやデザインを生み出す糸口を探すような記述。
黒河内が、ブランド創設以前から1シーズンに1冊書き続けているというノートから厳選された360ページが初公開されています。華やかな世界に身をおくデザイナーからイメージする人物像は、ノートを見ているうちに、一歩一歩日々を大切に生きる等身大の女性へと変わっていきました。
ぶれない強さや些細なことをすくい上げる感性などが読み取れます。美しいという形容詞だけでは言い切れない「Mame Kurogouchi」の洋服たちに流れるものがどこから来ているのか。ノートは教えてくれました。
「長野」のパートより PVC製のバッグ、ヘッドピース(2011年春夏から2020年秋冬)
本展のために製作されたオリジナルテキスタイル(一部)
鉛筆の手書きの文字が織りなす黒河内の世界観に浸りながら、いつしか自分の日常を振り返っていることに気づきました。自分が大事にしたいもの、丁寧に生きていきたい部分を再認識させてくれます。グッと心を押されるような。明日からの自分を奮い立たせてくれるような。
ある日のノートに箇条書きされたブランドのコンセプトの一部が目に留まります。「背中を押してくれる」、そして「走れる」洋服であることと。
「夢」セクションより 左/2016年秋冬「Alchemist」 中・右/2013年秋冬「Your Memory」
新しくなった長野県立美術館本館
「Mame Kurogouchi」デザインのスタッフユニフォーム。写真撮らせてもらいました。
本館から連絡ブリッジで東山魁夷館に繋がっています。
本館隣にある東山魁夷館
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2021年6月19日 ]
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