平安初期に創建された世界遺産・醍醐寺。密教の中核寺院でもある醍醐寺は、醍醐天皇の御願寺として発展し、仏像や仏図、屏風絵、経典類など約20万点の寺宝を所蔵しています。
2001年には東京国立博物館で「国宝 醍醐寺展」が開催されましたが、東京ではそれ以来となる大規模な醍醐寺の企画展。国宝11件、重要文化財11件を含む44件48点で、醍醐寺の魅力をご案内します。
地下には仏画や仏像が並びます展覧会最大の注目は、国宝《過去現在絵因果経》。釈迦の前世と現世における事績を経文と絵であらわした絵巻で、「巻第三上」である醍醐寺本は、悉達太子(しったたいし:出家前の釈迦)が出家してから、悟りを開いた釈迦が魔王を降伏(ごうぶく)するまでを描いています。
制作は奈良時代の8世紀半ばと、日本最古の絵巻。これ以降で現存する絵巻は12世紀前半の《源氏物語絵巻》まで約400年も時代が下ります(ちなみに鳥獣戯画も平安~鎌倉時代の制作です)。
文字も絵も1200年以上も経っているとは思えないほど鮮明ですが、経文の達筆さと比べて、絵は脱力系でかなりユニーク。ただ、絵因果経は「難解な経文を分かりやすく絵画化した」ものですので、目的どおりといえるかもしれません。
国宝《過去現在絵因果経》屏風が並ぶ会場2階は、煌びやかな趣き。一般的に屏風の展示は曲げて自立させますが、本展では完全に開いた状態で並ぶため、大きな屏風絵をよりダイナミックに見る事ができます。
この展示室は、豊臣秀吉が盛大に催した「醍醐の花見」をイメージしました。応仁の乱でほとんどの建物が灰燼に帰した醍醐寺は、80代座主の義演(ぎえん)が秀吉の援助を受け、大規模な復興を果たしています。
「醍醐の花見」の際に、秀吉は秋の紅葉狩りも約束しましたが、約束を果たせずにその年に死去。その代わりではないですが、会場では見事な紅葉の屏風もお楽しみいただけます(江戸中期の絵師・山口雪渓の代表作《楓図屏風》)。
会場2階醍醐寺にはすでに多くの国宝や重要文化財がありますが、昨年(2013年)も新たに《醍醐寺文書聖教》が国宝に指定されました。本展ではその中から、醍醐寺にゆかりがある信長、秀吉、家康の三人の天下人の書状も展示されています。
《織田信長黒印状 醍醐寺年預宛「就在陣祈祷之…」》は、信長の戦勝祈願をした醍醐寺に対して、信長から送られた感謝状。「天下布武」の印で、信長の書状である事が分かります。《豊臣秀吉書状(席次の次第)》は、関白になった秀吉が、親王などの位について裁定した書状。《徳川家康書状「真言宗諸法度」》は、徳川幕府から出された真言宗に対する法令です。
信長、秀吉、家康の書状国宝《過去現在絵因果経》の全場面展示は、10/7~13、10/28~11/3、11/18~24の3回(10/15~26は前半場面展示、11/5~16は後半場面展示)。他も会期中に展示替えがありますので、詳しくは
公式サイトの出展リストでご確認ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年10月8日 ]