チャイルド・ハッサム《花摘み、フランス式庭園にて》1888年 ウスター美術館
あべのハルカス美術館で2024年10月12日から来年1月5日まで「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」が開催されています。
印象派のファンは多く、印象派の展覧会は各地で何度も開かれていますが、今回の展覧会は「いつもと違う視座」「紹介するポイントが違う」とのことでとても楽しみです。今回の展覧会の英語タイトル「Frontiers of Impressionism:Paintings from the Worcester Art Museum」がそれを示しています。
第1章 伝統への挑戦
第1章では、印象派の先駆けとなる動きが紹介されています。いわば「歴史画を頂点とする絵画のヒエラルキー」へのチャレンジと言えるものです。
アメリカの風景を描き、のちに一つの美術運動となるハドソン・リヴァー派の画が如実にそれを表しています。コールは、新しい国の風景の雄大さとその広大さを描き、成功をおさめます。その後、アメリカからイタリアへと視線を移します。
トマス・コール《アルノ川の眺望、フィレンツェ近郊》1837年 ウスター美術館
印象派を特徴づける「屋外で制作」「色は明るい」「粗っぽい筆致」のうち、屋外での制作を印象派のはるか以前に実践していたのが、ウィンスロー・ホーマーです。地元の風景を主題とするバルビゾン派同様、アメリカ的な風景を描いています。
ウィンスロー・ホーマー《冬の海岸》1892年 ウスター美術館
第2章 パリと印象派の画家たち
今年は、パリで開かれた第1回印象派展から150年となります。印象派はヨーロッパだけでなく、アメリカ、そして遠く離れた日本へも大きな影響を与えました。
印象派と言えば、モネ!モネと言えば「睡蓮」!愛する庭に植えた睡蓮を描いた連作であまりに有名です。
クロード・モネ《睡蓮》 1908年 ウスター美術館
今回の展覧会で展示される「睡蓮」をウスター美術館が購入する経緯が手紙や電報で時系列で展示されています。
いちはやく印象派やモネの睡蓮に着眼したウスター美術館の慧眼に敬意を表したいと思います。大きな反響を呼んだ印象派展に唯一参加したアメリカ人が、メアリー・カサットです。パリでの印象派の画家たちとの交流を通して、より粗い筆致、より明るい色調に傾いていき、さらに画家としてだけでなく、友人や収集家の美術アドバイザーとしても活躍し、印象派の認知度を高めるのに貢献したと言われています。
メアリー・カサット《裸の赤ん坊を抱くレーヌ・ルフェーヴル(母と子》】 1902~03年 ウスター美術館
第3章 国際的な広がり
パリで花開いた印象派ですが、パリを訪れた画家たちの往来・交流によって各国に広がっていきました。パリから遠く離れた日本も例外ではなく、すぐに伝えられました。日本各地の美術館に所蔵される明治期から大正期の作品が展示されます。
太田喜二郎は、師事したベルギーの画家クラウス仕込みの、同じ眺めを季節や天候・時刻によって描き分けようとするアプローチで描いています。
太田喜二郎《サン・ピエール寺院》1910~11年 郡山市立美術館
アンデシュ・レオナード・ソーンはスウェーデンの画家です。定期的にパリを訪れ、長期滞在したこともあったそうです。
ストックホルムから北西へ300キロのムーラ周辺の風景を背景とした裸婦の画は、フランス印象派が色濃く影響している作品です。裸婦の背中に落ちる木漏れ日の光や湖面に反射する光が生き生きとしています。
アンデシュ・レオナード・ソーン《オパール》1891年 ウスター美術館
第4章 アメリカの印象派
この章では、今まで日本で紹介される機会が少なかったアメリカ印象派を大きく紹介されます。
アメリカ・ボストン近郊にあるウスター美術館は、開館当初から印象派の作品を積極的に収集してきたことで知られています。今回紹介される作品のほとんどが日本初公開という点もうれしいポイントです。
多くのアメリカの画家たちがヨーロッパにわたり、印象派の様式を学び、持ち帰りました。なかでもチャイルド・ハッサムは、アメリカの都市を描きました。パリの印象派がパリを描いたように、ハッサムは居を構えたボストンを描きました。
チャイルド・ハッサム《コロンバス大通り、雨の日》1885年 ウスター美術館
チャイルド・ハッサムの他、ウィリアム・メリット・チェイス、ジョゼフ・H・グリーンウッドなどの作品が一堂に会しているのを見ることができます。
「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」展示風景 あべのハルカス美術館 2024年
第5章 まだ見ぬ景色を求めて
印象派に大きく影響を受けた画家たちですが、ポスト印象派の新たな地平を求めて探求の旅を続けます。
セザンヌの「『カード遊びをする人々』のための習作」がひときわ目を引きます。セザンヌは印象派の画家たちと同世代ですが、印象派とみなされることはあまりありません。揺らめく紫と淡い青の色彩は、セザンヌをセザンヌ足らしめています。
ポール・セザンヌ《「カード遊びをする人々」のための習作》1890~92年 ウスター美術館
印象派の画家たちの「戸外で描く」ことによって、いろいろな場所で制作することが可能になりました。デウィット・パーシャルらは、グランド・キャニオンの大自然の驚異を描きました。アメリカらしい壮大な景色を大胆に、そして繊細に描いています。
デウィット・パーシャル《ハーミット・クリーク・キャニオン》1910~16年 ウスター美術館
最後に
今展覧会では、撮影可の作品もあり、さらに各所に印象派らしいフォトスポットが設けられています。
「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」展示風景 あべのハルカス美術館 2024年
入り口すぐのところに、大きなモネの睡蓮に光が揺らめくスポットがあります。記念撮影をするもよし、ボーっと眺めているもよしの心憎い演出です。
最後のお楽しみ、ミュージアムショップでは、定番の図録やファイルなどのほか、モネの睡蓮の靴下やサコッシュなどもあり、ぜひ連れて帰りたいものばかりです。展覧会は来年1月5日までです。ぜひ、足をお運びください。
[ 取材・撮影・文:atsuko.s / 2024年10月11日 ]