アメリカ・ボストン近郊に位置するウスター美術館。古代エジプトなどの美術品から、現代美術まで、約40,000点のコレクションを有し、開館当初から印象派の作品も積極的に収集してきましたが、それらが日本で紹介される機会はありませんでした。
モネやルノワールなどフランスの印象派や、ドイツや北欧の作家、国際的に活動したサージェント、そしてアメリカの印象派を代表するハッサムなど、知られざる数々の作品が来日。ほとんどが日本初公開という注目の展覧会が、東京都美術館で始まりました。
東京都美術館「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」会場入口
展覧会の第1章は「伝統への挑戦」。産業革命を経て、近代化が進んでいった19世紀。画家たちも新しい主題や技術を探求していきます。
それまでの風景画は神話・聖書の物語などで描かれていましたが、新しい時代の画家たちは身の回りの風景に注目。
バルビゾン派のコローは、家族が所有する別荘があったパリ近郊のヴィル=ダヴレーをしばしば訪れ、この地の風景を描いています。
ジャン=バティスト=カミーユ・コロー《ヴィル=ダヴレーの牧歌的な場所――池畔の釣り人》1865-70年 ウスター美術館
そのような傾向は、大西洋を挟んだアメリカでも生まれていました。ボストン生まれのホーマーは、印象派に先駆けて戸外での絵画制作を推進。《冬の海岸》はメイン州の海岸を描いた作品です。大胆な筆づかいには、印象派的な側面も見られます。
ウィンスロー・ホーマー《冬の海岸》1892年 ウスター美術館
第2章は「パリと印象派の画家たち」。1874年4月、パリのカピュシーヌ大通り35番地で、サロン(官展)のあり方に異議をとなえる画家たちにより、初のグループ展が開催。ここに印象派が誕生しました。
本展のメインビジュアルでもある《花摘み、フランス式庭園にて》は、アメリカ印象派を代表するハッサムの作品。ハッサムは1886年からパリに留学し、新しい表現を自らの作品に取り入れていきました。
チャイルド・ハッサム《花摘み、フランス式庭園にて》1888年 ウスター美術館
モネはいわずと知れた印象派の巨匠。その後半生をパリ北西のジヴェルニーで過ごし、自らつくり上げた「水の庭」の睡蓮を描きつづけ、印象派の絵画を抽象画に近づけていきました。
ウスター美術館蔵の《睡蓮》は、1910年に画廊から購入した作品。連作である《睡蓮》は世界中の美術館で愛されていますが、実は世界で初めて《睡蓮》を購入した美術館はウスター美術館なのです。
クロード・モネ《睡蓮》1908年 ウスター美術館
第3章は「国際的な広がり」。パリに留学した画家たちは新しい絵画の様式に衝撃を受け、その手法を自国に持ち帰っていきました。
日本の黒田清輝は1884年に法律を学ぶためにパリに留学。2年後に絵画修行をはじめました。《落葉》や《草つむ女》の筆づかいからは、印象派に対する関心が伺えます。
(左から)黒田清輝《落葉》1891年 東京国立近代美術館 / 黒田清輝《草つむ女》1892年 東京富士美術館
第4章は「アメリカの印象派」。1880年代半ばにアメリカでも印象派が注目されるようになると、多くの画家が現地で印象派の様式を学び、独自の解釈を交えてアメリカに広まっていきました。
ハッサムは1883年に初めてパリを訪れて、フランス近代絵画と出合いました。アメリカにおいて印象派を早くから取り入れたひとりです。
チャイルド・ハッサム《コロンバス大通り、雨の日》1885年 ウスター美術館
ターベルは「ターベライト(ターベル信奉者)」という言葉が生まれるほど、ボストンの美術界では大きな影響を持った画家です。
光と色彩を重視しながらも、伝統的な造形と細部の描写にも力を入れるのは、ボストン派の特徴です。
エドマンド・チャールズ・ターベル《ヴェネツィアン・ブラインド》1898年 ウスター美術館
最後の第5章は「まだ見ぬ景色を求めて」。印象派の時代を経た画家たちは、さらに新しい絵画の探究を続けていきました。
ベンソンは写実的な人物表現と印象派的な光の表現で知られるアメリカの画家。《ナタリー》は完全に戸外で制作された肖像画で、モデルがフェンスに腰を掛け本作と同じポーズをとる写真が残っています。
フランク・ウェストン・ベンソン《ナタリー》1917年 ウスター美術館
1901年にグランド・キャニオンに通じる鉄道が敷設されると、鉄道会社は宣伝のために5人の画家に同地を描かせました。
パーシャルはそのひとり。目を閉じたまま崖の縁まで連れられて、自然の絶景を目の当たりにしたと伝わります。断崖絶壁に反射する太陽光の印象が、多彩な陰影で表現されています。
デウィット・パーシャル《ハーミット・クリーク・キャニオン》1910-16年 ウスター美術館
著名な印象派の画家の作品から、知られざるアメリカ印象派の世界までの広がりを実感できる展覧会です。章のあいだなどにフォトスポットもたくさん用意されています(作品の撮影はできません)。
東京都美術館での展覧会の後に、郡山、八王子、大阪と巡回します。会場と会期はこちらです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年1月25日 ]
This exhibition was organized by the Worcester Art Museum