ちょうど10年前、2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」。世界中で愛される存在になりましたが、漠然としたイメージはあっても、具体的に「和食とは何か」と考える機会は、あまりないと思います。
あらためて和食をテーマに、さまざまな標本や資料とともに、科学や歴史などの多角的な視点から紹介していく展覧会が、国立科学博物館で開催中です。
国立科学博物館 特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」展示風景
展覧会の第1章は「『和食』とは?」。幅が広い和食の世界。あなたが思う和食と、隣の人が思う和食は、全く違うかもしれません。
ここでは世界と日本の食を比較しながら、和食とは何かを考えていきます。
第1章「『和食』とは?」
第2章は「列島が育む食材」は、いかにも科博らしい取り組み。食材などに焦点をあてて、科学的な視点から和食を解説していきます。
まずは、和食の基本といえる水について。水に含まれるカルシウムとマグネシウムの量が多いのが硬水、少ないのが軟水。日本の水は基本的に軟水です。
軟水は水の中に成分が溶けて出やすく、出汁を使う和食に適しているとされています。
第2章「列島が育む食材」より「水」
目を引くのが、ずらっと並んだ25種類のダイコン。漬物や煮物、薬味、みそ汁の具、切り干しなど、ダイコンは和食に欠かせない食材です。
日本は世界で最もダイコンの品種が多く、800種以上が存在します。1970年代以降は、生産効率が高く食味もよい青首大根が、市場流通のほとんどを占めています。
第2章「列島が育む食材」より「大根」
第3章は「和食の成り立ち」。さまざまな時代の食を通して、和食の成立過程を辿ります。
大阪府池上曽根遺跡などの遺跡で発掘された動物の骨、植物の種子、花粉などから再現されたのは「卑弥呼の食卓」です。炊き込みご飯、マダイの塩焼き、豚肉の煮物など、現代に生きる私たちでも食べたくなる豪華メニューです。
第3章「和食の成り立ち」より「卑弥呼の食卓」
続いて、織田信長の饗応膳。室町時代になると、武士の間で和食の原型ともいえる「本膳料理」が成立。戦国時代にかけて発展していきました。
展示されているのは、織田信長が安土城で徳川家康をもてなした時の「十五日おちつき膳」の再現模型です。この宴の饗応役が明智光秀、大河ドラマのシーンを思い出す方もいるのでは?
第3章「和食の成り立ち」より「織田信長の饗応膳」
明治時代になると、宮中晩餐会の正式料理にフランス料理が採用されました。
再現されたメニューは、明治20年に明治天皇と昭憲皇太后がドイツからの賓客をもてなした際のものです。
第3章「和食の成り立ち」より「天皇の午餐会」
戦後になると食は多様化。インスタント食品や冷凍食品が登場して食事は簡便になり、オリンピックや万博などを経て、外国由来の料理もさらに広まりました。
昭和21年~48年に朝日新聞に連載されたマンガ『サザエさん』にも、さまざまな食のシーンが描かれました。会場には、サザエさんに登場したメニューも並びます。
第3章「和食の成り立ち」より「磯野家の食卓」
第4章は「和食の真善美」。和食は地理、食材、歴史など、日本という土地から生まれたさまざまな要素が複雑に影響し合って成立しました。
ここでは、和食の「技」と「道具」、そして和食に欠かせない「美」「季節」をテーマにした空間で、和食の世界が体感できます。
第4章「和食の真善美」
第5章は「わたしの和食」。時代とともに変化している和食の姿。ラーメンや焼き肉など肉料理を目当てに来日する旅行客も増えており、何が和食にあたるのかを定義づけるのは、なかなか困難です。
ここでは、カレーライス、ラーメン、あんぱんなど、日本の食卓でも人気が高い12のメニューについて、アンケート結果を公開中。その結果は地域や年代でも異なっています。あなたの和食イメージとは、あっていますか?
第5章「わたしの和食」
最後の第6章は「和食のこれから」。ここまで見てきたように、和食はこれからも変化を続けていくと思われます。
古くから各地で栽培されていた伝統野菜の復活の動きや、不明な点が多い二ホンウナギの完全養殖プロジェクトなど、近年の動きも紹介されています。
第6章「和食のこれから」
本展は2020年に開催される予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で中止に。3年を経て、ようやく開催に至りました。
特設ショップには展覧会とコラボしたリラックマのオリジナルグッズなど、楽しい商品もありました。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年10月27日 ]