英国を代表する国立美術館、テート。テート・ブリテン、テート・モダン、テート・リバプール、テート・セント・アイヴスの4つの国立美術館で、7万7千点のコレクションを有しています。
本展は、テートのコレクションから「光」をテーマにした作品を紹介する企画。18世紀末から現代まで、約120点が国立新美術館に並びます。
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[ENTRANCE] 国立新美術館「テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ」会場入口
展覧会は図録の構成と展示順が異なるので、動線に沿ってご紹介します。第1章は「精神的で崇高な光」。17世紀~18世紀の欧州は、理性と秩序を重んじる啓蒙の時代でしたが、ロマン主義の画家たちはこうした潮流から距離を取り、精神世界への関心を強めていきました。
ウィリアム・ブレイク(1757–1827)は、ロマン主義の先駆者です。《アダムを裁く神》では、後光が差しているような姿で神を描き、威厳や権威を持たせています。
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[Room1] (左から)ウィリアム・ブレイク《善の天使と悪の天使》1795-1805年頃? / ウィリアム・ブレイク《アダムを裁く神》1795年
第2章は「自然の光」。自然の光を絵画で表現するという難しいテーマに多くの画家が挑むなか、「光の画家」と称されるほどこの画題を得意にしたのが、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775–1851)です。
ターナーが描く光は明確な輪郭線を持たず、周囲の自然に溶け込んでいるのが特徴的です。
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[Room1] (左から)ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー《陰と闇—大洪水の夕べ》1843年出品 / ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー《光と色彩(ゲーテの理論)—大洪水の翌朝—創世記を書くモーセ》1843年出品
第4章は「光の効果」。科学的な側面から光に関心を抱き、芸術表現を進める美術家たちもいます。
光が物体にあたり、跳ね返ることで起こる反射。草間彌生(1929-)による《去ってゆく冬》は、鏡面反射を利用した作品で、鑑賞者が丸い開口部を覗き込むと、無限の空間が広がります。
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[Room2] (手前)草間彌生《去ってゆく冬》2005年 Ⓒ YAYOI KUSAMA
第3章は「室内の光」。19世紀末に都市の近代化が進むと、画家たちは室内というプライベート空間の表現を追及していきます。窓から入る光の効果を作品に取り入れることで、作品に情感を付加していきました。
ウィリアム・ローゼンスタイン(1872–1945)は《母と子》で、右手からの柔らかな光を用いることで、2人の親密な関係性を示しています。
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[Room3] (左から)ウィリアム・ローゼンスタイン《母と子》1903年 / ヴィヘルム・ハマスホイ《室内》1899年
第5章は「色と光」。美術と工芸、デザインの総合的な教育を目指したバウハウスでは、幾何学的な形態を用いて、光と色の関係を考察していきました。
バウハウスに招聘され、後に抽象絵画の先駆者と位置づけられるワシリー・カンディンスキー(1866–1944)も、色同士の関係性が生み出す視覚的効果を探求したひとりです。
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[Room5] (左から)ブリジット・ライリー《ナタラージャ》1993年 Ⓒ Bridget Riley 2023-2024. All rights reserved. / ワシリー・カンディンスキー《スウィング》1925年
第6章は「光の再構成」。19世紀半ばに電球が発明され、20世紀に入ると一般にも浸透。後に芸術にも利用されるようになっていきます。
デイヴィッド・バチェラー(1955-)は都市環境における色や光に関心を抱き、色とりどりのライトボックスを積み上げた作品を制作しました。
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[Room6] (左から)デイヴィッド・バチェラー《ブリック・レーンのスペクトラム 2》 2007年 / デイヴィッド・バチェラー《私が愛するキングス・クロス駅、私を愛するキングス・クロス駅 8》 2002-07年 ともにⒸ David Batchelor
最後の第7章は「広大な光」。現代の美術家にとっても光は重要なテーマで、注目の作品が登場します。
気候変動に関心を持って作品に反映させている、オラファー・エリアソン(1967–)。鑑賞者が多面体に反射する光に満たされた空間に身を置く《星くずの素粒子》では、自らの行動が、どのように世界に作用するのかを意識させます。日本初出品の作品です。
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[Room7] オラファー・エリアソン《星くずの素粒子》2014年 Ⓒ Olafur Eliasson
美術にとって「光」は普遍的なテーマですが、これだけ幅広い作品が並ぶのはテートならでは。古典的な名作から現代のインスタレーションまで、多様な光の表現に包まれる充実の内容です。
取材制限の関係でご紹介できませんでしたが、ジェームズ・タレル《レイマー、ブルー》は、ぜひ作品以外のものが視界から消えるまで近寄って、お楽しみください。
展覧会は中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドで開催された世界巡回展。日本が最終会場で、エドワード・バーン=ジョーンズ、マーク・ロスコなどの12点は日本会場のみの限定出品となります。東京展の後に、大阪中之島美術館に巡回します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年7月11日 ]