服を着るという行為は、人間にとって本能的で普遍的な営みです。その装いには「誰かのようになりたい」「自分らしくありたい」「日常から解放されたい」といった内なる欲望や感情が映し出されます。
京都服飾文化研究財団(KCI)が所蔵する18世紀から現代までの衣装コレクションと、ファッションを題材にしたアート作品を通じて、人間の多様な「LOVE=情熱や願望」をひもとく展覧会が、東京オペラシティアートギャラリーで開催中です。

東京オペラシティアートギャラリー「LOVEファッション ― 私を着がえるとき」会場入口
展覧会は、第1章「自然にかえりたい」から。人は古くから自然の美しさに惹かれ、花や動物をモチーフに装いを楽しんできました。
毛皮や羽根などの素材はやがて環境への影響をもたらしましたが、近年ではそれを見つめ直し、自然との新たな関係性を模索する表現が現れています。憧れと反省、共存への願いが衣服やアートに込められています。

第1章「自然にかえりたい」
第2章「きれいになりたい」では、美しさを求める思いが身体を変形させるようなファッションを生み出してきた歴史が紹介されます。
コルセットやバッスルといった衣装に表れる理想と、現代の価値観とのズレが、美の欲望と向き合う私たちの姿を浮かび上がらせます。

第2章「きれいになりたい」
続く第3章は「ありのままでいたい」。社会の中で役割を担う私たちは、「そのままの自分でいたい」と願います。
1990年代以降はリアルな身体に寄り添う服や、ボディ・ポジティブといった運動も広がりましたが、「ありのまま」とは何かを問い直す視点も欠かせません。ファッションは、自己肯定と揺らぎの両方を映すのです。

第3章「ありのままでいたい」
第4章「自由になりたい」では、ファッションが自己表現の手段であると同時に、時に私たちを縛るものでもあるという矛盾が提示されます。
川久保玲による『オーランドー』のコレクションや、ウルフの小説に触れながら、変化する自己を肯定しようとする視点が描かれます。ファッションは、自分自身を問い直す自由な場なのです。

第4章「自由になりたい」
そして第5章「我を忘れたい」では、人が現実の自分から離れ、別の存在になることへの憧れがテーマ。幻想的な衣装や仮想の自己は、変身願望をかなえる手段となりますが、欲望は尽きることなく新たな「私」を求め続けます。
ファッションはその魔法であると同時に、人間の果てしなさを映す鏡でもあるのです。

第5章「我を忘れたい」
自然への憧れ、美への渇望、自分らしさを求める気持ち、自由への希求、そして別の存在への夢。ファッションは、こうした人間の複雑な感情を映し出してきました。
「着ること」を通じて、人間とは何かという根源的な問いに静かに触れる体験をもたらしてくれる展覧会です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年4月14日 ]