蔦重の活動を、天明・寛政期を中心に多角的にご紹介します。遊郭や歌舞伎、狂歌といった当時の大衆文化を背景に、人気絵師や戯作者とのネットワークを駆使し、徹底したユーザー視点で次々と新機軸を打ち出した蔦重は、まさに“江戸のメディア王”といえる存在です。
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」とも連動し、江戸の熱気の中で彼が創出した価値や芸術性を体感できる展覧会が、東京国立博物館で開催中です。

東京国立博物館「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」会場入口
蔦屋重三郎の出版人生は、吉原のガイドブック『吉原細見』に携わったことから始まりました。江戸の遊里文化を背景に、洒落本や黄表紙といった大衆文学のジャンルを刷新。朋誠堂喜三二や山東京伝ら人気作家を起用し、鋭い風刺と笑いに満ちた戯作で読者を魅了していきます。
蔦重のプロデュース力が、すでにこの時代から際立っていたことがうかがえます。

第1章「吉原細見・洒落本・黄表紙の革新」

第1章「吉原細見・洒落本・黄表紙の革新」
天明期、江戸で一大ブームとなったのが「狂歌」でした。蔦重は「蔦唐丸」の名で狂歌界に参入し、ただの作り手にとどまらず、狂歌集や絵本の出版を一手に引き受ける文化プロデューサーとして活躍します。
大田南畝や朱楽菅江といった一流文化人との交流の中で生まれた作品群からは、当時の知的サロンの熱気と創造力が伝わってきます。

第2章「狂歌隆盛―蔦唐丸、文化人たちとの交流」
出版人としての蔦重の名を決定づけたのが、喜多川歌麿や東洲斎写楽といった浮世絵師たちの発掘でした。中でも、大首絵の手法を用いた人物表現は、絵師の個性を引き出すだけでなく、江戸の人々の感情や人間味をリアルに映し出しています。
蔦重の鋭い編集眼と戦略が、浮世絵の新たな地平を切り開いたことがわかります。

第3章「浮世絵師発掘―歌麿、写楽、栄松斎長喜」

第3章「浮世絵師発掘―歌麿、写楽、栄松斎長喜」
展覧会の最後には、なんと江戸のまちが出現。蔦重が活躍した天明・寛政期の江戸は、人口百万を超える巨大都市で、経済も文化も躍動する舞台でした。
最終章では、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」のセットとともに、当時の江戸を立体的に体感することができます。蔦重の出版活動の背景にあった、にぎわいと熱気に満ちた都市の姿が、鮮やかに立ち上がります。

附章「天明寛政、江戸の街」

附章「天明寛政、江戸の街」
江戸の文化と出版を牽引した蔦屋重三郎の創造力と先見性。その歩みをたどる本展は、私たちに“面白いとは何か”をあらためて問いかけてくれる貴重な機会です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年4月21日 ]
※会期中、展示替えあり。 前期:4月22日~5月18日、後期:5月20日~6月15日