1910年代から30年代に世界各地で現れた「モダン」の形。機能主義に基づく「モダニズム」と、装飾することに価値が置かれた「モダニティ」は、複雑に関係しながら新たな表現が生まれていきました。
急速に変化する社会のなかで進んでいった「モダン」のかたちを紹介する展覧会が、東京都庭園美術館で開催中です。
東京都庭園美術館「交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー」会場 (左から)マルセル・ブロイヤー《ラウンジチェア B25》1928-29年 宇都宮美術館 / ヨーゼス・ホフマン《座るための機械》1906年頃 豊田市美術館
モダンの起点といえるのは、ドイツの応用芸術とウィーン工房です。大衆社会に相応しい日用品が求められ、フランスでも装飾・応用芸術が刷新されていきます。
室内家具調度がトータルでデザインされるようになると、その影響は服飾にも及びます。ポール・ポワレはコルセットから女性を解放しました。
場所やジャンルを超え、モダンの波は広がっていったのです。
chapter 1「1900-1913」 (手前左から)ブルーノ・パウル《ダイニングチェア》1908年 織田コレクション/北海道東川町 / リヒャルト・リーマーシュミット《ダイニングチェア》1906年 織田コレクション/北海道東川町 / (奥)ペーター・ベーレンス《第1回ドイツ工作連盟ポスター》1914年 豊田市美術館
chapter 1「1900-1913」 (左から)ポール・ポワレ《ガーデン・パーティ・ドレス》1911年 島根県立石見美術館 / ポール・ポワレ、テキスタイルデザイン:アトリエ・マルティーヌ《女児用ボレロ》1911年以降 ポール・アレクサンダー氏、藤田真理子氏蔵
1914年には、第一次世界大戦が勃発しました。人々は世界が一気に同期することを経験し、またその世界は安定的なものではないことを知りました。
戦地に赴いた男性たちに代わり、女性が社会に進出していきます。ウィーン工房では美術工芸学校でヨーゼフ・ホフマンに学んだ女子学生たちが、デザインを手がけるようになりました。
chapter 2「1914-1918」 (左から時計回り)アニー・シュレーダー『女性の生活』第1集16 1916年 島根県立石見美術館 / アニー・シュレーダー『女性の生活』第1集3 1916年 島根県立石見美術館 / アニー・シュレーダー『モードウィーン 1914/15』第7集2 1915年 島根県立石見美術館 / アニー・シュレーダー『モードウィーン 1914/15』第7集9 1915年 島根県立石見美術館 / アニー・シュレーダー『女性の生活』第1集9 1916年 島根県立石見美術館
女性たちが中心を担うようになったウィーン工房からは、カラフルで愛らしい柄模様が次々に発表。フランスでは新しい時代の女性に相応しいファッションが次々に生まれました。
1919年にはドイツでバウハウスが設立されました。大戦の経験も踏まえ、新しい社会の建設を目指していきました。
日本でも生活改善運動が進展。斎藤佳三や森谷延雄らが、近代社会に相応しい服や家具を模索していきました。
chapter 3「1919-1925」 (左奥から)フランシス・ジュールダン《壁紙サンプル》1924年頃 パリ装飾美術館 / ジャン・デュナン《球体花瓶(緑、黒)》1925年頃 東京国立近代美術館 / ポール・ポワレ《デイ・ドレス「ブルトンヌ」》1921年 島根県立石見美術館[展示期間:2022年12月17日~2023年1月22日] / ジャンヌ・ランヴァン《ドレス「ローブ・ド・スティル」》1926-27年 神戸ファッション美術館 / ジャンヌ・ランヴァン《イヴニング・ドレス》1924年頃 京都服飾文化研究財団
chapter 3「1919-1925」 (前列左から)フランシス・ジュールダン《蓋つきのポット》1920-21年 ポール・エリュアール歴史美術館・サンドニ / ルネ・ピュトー《花模様大皿》1920-25年頃 東京国立近代美術館 / ジャン・リュス《花瓶》制作年不詳 東京都庭園美術館 / (後列左から)フランシス・ジュールダン《ランプ》1920-21年 ポール・エリュアール歴史美術館・サンドニ / デザイン:アンリ・ラパン、絵付:カミーユ・タロー《花瓶》1925年頃 東京都庭園美術館 / ルネ・ピュトー《裸婦図壺》1920-25年頃 東京国立近代美術館
chapter 3「1919-1925」 (左から)斉藤佳三《表現浴衣》制作年不詳 東京藝術大学 / 斉藤佳三《表現浴衣「青い鳥(ブルーバード)の塒(ねぐら)」》1930年頃 東京藝術大学[展示期間:ともに 2022年12月17日~2023年1月22日]
デッサウに移転したバウハウスは、合理化の方針がいっそう強化されていきますが、ナチスの台頭により1933年に閉鎖。留学経験者の山脇蔵・道子らが、その理念を日本に持ち帰っています。
フランスではガブリエル・シャネルやマドレーヌ・ヴィオネが、機能性と装飾性を備えたドレスを発表。現代生活に相応しい建築・応用芸術の創造を目的に1929年には現代芸術家連盟(UAM)が結成され、こちらは戦後まで活動を続けました。
chapter 4「1926-1938」 (左手前)ヘリット・トーマス・リートフェルト《ベルリンチェア》1923年(再製作:1958年)豊田市美術館 / (その奥 壁面)ジャック・ル・シュヴァリエ《電気スタンド》1927年 東京国立近代美術館 / (その右)アイリーン・グレイ《トランサット・チェア》1927 年 織田コレクション/北海道東川町
chapter 4「1926-1938」 (一番手前)ルネ・エルブスト《寝椅子》1928-29年 織田コレクション/北海道東川町 / (その右奥)エーリッヒ・ディークマン《子供用椅子》1928年 東京国立近代美術館
chapter 4「1926-1938」 (奥のドレス3点 左から)マドレーヌ・ヴィオネ《イブニング・ドレス》1928年 島根県立石見美術館 / マドレーヌ・ヴィオネ《イブニング・ドレス》1922年頃 京都服飾文化研究財団 / ガブリエル・シャネル《イブニング・ドレス》1920年代後半 島根県立石見美術館
会場の東京都庭園美術館・本館(旧朝香宮邸)は、1933年の竣工。同時代の空間と作品のコラボも、展覧会の見どころです。
展覧会は豊田市美術館、島根県立石見美術館と巡回して、東京展が最終会場です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年12月16日 ]
※現在は後期展示(1月23日~)期間のため、掲載写真と異なる作品の場合がございます。