少女・アリスがウサギを追いかけて不思議の国に迷い込み、さまざまなキャラクターたちと出会いながら冒険する『不思議の国のアリス』。
ルイス・キャロルによって発表されて以来、170以上の言語で翻訳され、続編の『鏡の国のアリス』とともに多くのファンに支持されてます。そんなアリスの世界とその魅力を紹介する展覧会が、森アーツセンターギャラリーではじまりました。
会場入口
第1章は「アリスの誕生」。アリスの物語は、イギリスの数学者のチャールズ・ラトウィッジ・ドジソンが知人の娘たちに語った即興の物語です。
ドジソンは、挿絵画家ジョン・テニエルと話し合いを重ね、ルイス・キャロルの筆名で1865年に『不思議の国のアリス』を初版。会場では、ドジソンの手書きの構想やテニエルの原画、物語を生んだヴィクトリア朝の英国の時代背景を紹介します。
第1章は「アリスの誕生」
世界中でアートや映画、音楽、ファッション、演劇など、様々なジャンルで表現されてきた「アリス」。日本では明治時代に翻訳が始まり、1970年代に「アリスブーム」が起こります。ブームを牽引したといえる金子國義や酒井駒子、ヒグチユウコらが描いた『不思議の国のアリス』の原画も展示されています。
第1章は「アリスの誕生」
アリスの世界に入り込んだ様な空間も広がっている会場。第2章「映画になったアリス」では、初期のサイレント映画や1951年公開のディズニー映画『ふしぎの国のアリス』、ティム・バートン監督による『アリス・イン・ワンダーランド』『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』を紹介します。
会場風景
「不思議の国」の影の側面や無意識への旅は、アーティストたちの想像力もかき立てました。第3章「新たなアリス像」では、シュルレアリズムを代表する画家サルバドール・ダリの挿絵や、草間彌生、オノ・ヨーコの作品を紹介していきます。
『不思議の国のアリス With artwork by 草間彌生』 2013年
英国ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)を皮切りにした世界巡回展に日本オリジナル展示を加えた今回の展覧会。V&Aの展示でもあった、表情の変わるチェシャー猫や“狂ったお茶会”のインスタレーションは、今回の最大の見どころと言えます。
会場風景 “狂ったお茶会”のインスタレーション
アリスの冒険は、原作に忠実な内容のものから風刺やパロディー、現代の観客用に翻訳されたものまで、頻繁に舞台化されてきました。第4章「舞台になったアリス」では、英国ロイヤル・バレエ団公演『不思議の国のアリス』の公演ポスターや舞台衣装を紹介。
白ウサギに変身したルイス・キャロルにタップダンスを踊るマッド・ハッター(狂った帽子屋)、一際目を引くのはハートのクイーンの衣装です。
第4章「舞台になったアリス」
最後の展示室となる第5章は「アリスになる」。アリスの装いは、ファッションショーやオートクチュール、ストリート系のファッションのトレンドにも影響を与えてきました。
ここでは、ヴィヴィアン・ウエストウッドのアンサンブルや、ヴィクター&ロルフがデザインしたマッド・ハッター(狂った帽子屋)の衣装、日本の「パンク・ロリータ」衣装を紹介します。
第5章は「アリスになる」
奇妙な世界で個性豊かなキャラクターに出会い、様々に変化しながら旅をするアリスの姿や精神は、アーティストだけでなく社会運動や政治運動を行う人々にも受け継がれています。デモ活動を行う姿は、クイーンを前にしたアリスの物怖じしない姿を彷彿させます。アリスの冒険は、アイデンティティや権力とは何かを考える機会にもなるのです。
第5章は「アリスになる」
『不思議の国のアリス』の初版から150年以上が経った今なお、世界中で愛され様々な側面へ派生をし続けているアリス。会場では、物語を回顧しながら、新たなアリスとの出会いがありそうです。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2022年7月15日 ]