明治28年(1895)4月29日に帝国奈良博物館として開館した奈良国立博物館。今年でちょうど開館130年という節目の年を迎えました。
これを記念して、国宝112件、重要文化財16件を含む計143件という過去最大規模の展示が実現。仏教・神道美術の至宝が一堂に会し、「祈り」のかたちと、それを伝えてきた人々の思いが浮かび上がります。

奈良国立博物館 特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」会場入口
展覧会は全7章構成。第1章「南都の大寺」では、奈良の大寺院との関わりに焦点が当てられます。
明治維新による寺院の混乱を乗り越えて守られてきた祈りの像たち。東大寺や興福寺、元興寺といった名刹から、選りすぐりの仏像が出展されています。文化財保護の原点に立ち返るような展示構成が印象的です。

第1章「南都の大寺」 国宝《観音菩薩立像(百済観音)》飛鳥時代 7世紀 奈良・法隆寺
続く第2章「奈良博誕生」では、博物館設立の背景をたどります。奈良国立博物館が誕生する以前、明治8年(1875)から18回にわたり、東大寺を会場として奈良の文化財や産業を紹介する「奈良博覧会」が開催されました。
その成功が博物館構想を後押しし、帝国博物館(現・東京国立博物館)に次ぐ国立の博物館として、帝国奈良博物館が設立されたのです。

第2章「奈良博誕生」
第3章「釈迦を慕う」では、奈良で栄えた仏教において重視された、釈迦とその遺骨である仏舎利への信仰に着目。仏舎利は仏のエネルギーの結晶とも言われ、精緻な舎利容器には篤い祈りが込められています。
日本を代表する釈迦如来像の名作とともに、舎利荘厳具が一堂に集結。奈良博に、聖なる空間が現出します。

第3章「釈迦を慕う」
第4章「美麗なる仏の世界」では、色彩豊かな仏画や優美な仏像、截金や金箔などの高度な技法を駆使した工芸品が登場します。
平安から鎌倉時代にかけての作品群は、技術の粋と美意識の結晶とも言えるもので、まさに「美を尽くした祈り」がそこに息づいています。

第4章「美麗なる仏の世界」
第5章「神々の至宝」は、仏教以前から続く神道の美術に光を当てた章。鏡や剣によって象徴されてきた神々は、やがて神像としても表現され、また彼らに捧げるための工芸品も数多く製作されました。
奈良博が大切にしてきたテーマの一つである神道美術の世界を、石上神宮の国宝《七支刀》をはじめとする貴重な神像や絵画を通じて紹介します。

第5章「神々の至宝」 国宝《七支刀》古墳時代 4世紀 奈良・石上神宮
第6章「写経の美と名僧の墨蹟」では、仏の教えを伝える経典を美しく書写し、装飾するという文化に注目。写経は、書くこと自体が修行であり功徳となるのみならず、芸術としての完成度も追求されてきました。
煌びやかな装飾を施した写経が隆盛を極めた平安時代、文字そのものが祈りとなった日本独自の精神性が、繊細な美とともに伝わってきます。

第6章「写経の美と名僧の墨蹟」 (手前)国宝《金銀字一切経(中尊寺経)大般涅槃経 巻第四》平安時代 12世紀 和歌山・金剛峯寺
そして最終章、第7章「未来への祈り」へ。仏教では、釈迦の入滅から56億7000万年後に弥勒菩薩がこの世に現れ、すべての命を救うとされています。
この章では、仏さまと向き合うための特別な空間が設けられ、先人たちの祈りを受け継ぎながら、奈良国立博物館の新たな時代が静かに幕を開けます。
現在は、京都・宝菩提院願徳寺の国宝《菩薩半跏像》(章構成としては第4章)が展示されていますが、5/20からはここに奈良・中宮寺の国宝《菩薩半跏像(伝如意輪観音)》が展示されます。

第4章「美麗なる仏の世界」 国宝《菩薩半跏像》平安時代 8世紀 京都・宝菩提院願徳寺
130年の歩みを背負い、次の時代へと歩み出す奈良国立博物館。
その決意と感謝が随所に込められた構成は、単なる名品展にとどまらず、人々の祈りと文化の継承を体感できる特別な機会といえます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年4月18日 ]