山元春挙(やまもとしゅんきょ 1872-1933)という画家をご存知でしょうか? 馴染みのない方も多いかと思いますが、円山応挙の流れを受けた野村文挙、森寛斎という重鎮に師事し、早くに頭角を現した近代京都画壇のひとりです。
今年生誕150年を迎え、その画業を振り返る展覧会がゆかりの地・膳所(ぜぜ)を中心に大きくスポットをあてた内容で企画されました。今日はその「大津市歴史博物館」を訪ねてみました。主に山元春挙と弟子たちの作品を多くとりあげ、滋賀・膳所の地で地域の文芸活動に大いなる痕跡を残した意義を教えてくれる内容です。
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大津市歴史博物館 エントランス
まずは山元春挙の絵画から・・古典的、洋画風、いろいろ作風が変遷したようです。
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山元春挙 「前赤壁図」など展示風景
このオールマイティな感性を生かす作品に魅了され多くの弟子たちが集い、「早苗会」を結成。個性を重視し“何でもあり”の精神が自由闊達な風に乗り活動の幅を広げました。「早苗会」は30年を超えて活動をつづけた画塾です。柴田晩葉、疋田春湖、小林翠渓など滋賀出身の塾生をはじめ植中直斎、小早川秋聲などが名を連ねます。皆が得意な画法で風景画、動物画、人物画を描き、どれも個性的です。
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画塾「早苗会」について
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「都市と藝術 山元春挙先生追悼号」
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塾生による動物表現 展示風景
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「流木」柴田晩葉
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「雪に積む膳所」小林翠渓
春挙という人はかなりの趣味人のようで、画塾に山岳部をつくり山に登って写生したり、写真撮影も好んだようで愛用のカメラも展示されていました。撮った写真を題材にしたのでしょうか、弟子たちはヒントを得て描いたようです。
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山元春挙旧蔵の写真機
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山元春挙旧蔵 写真アルバム「乾坤函」
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「七面鳥」〈雄〉 「七面鳥」〈雌〉 廣本進
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左:「乱舞」林文塘 右:「夜這い猫」柴田晩葉
また、春挙の趣味を支えたのが地元滋賀の産業と人々でした。六万石の城下町だった膳所は明治近代化を迎え環境が大きく変貌しましたがそこへ根付いた新たな産業で息を吹き返しました。大勢の塾生を抱えた春挙は別邸兼画室となる「蘆花浅水荘」を構え、故郷に腰を据えて創作活動を行ったのです。
膳所の宮大工、清水風外(しみずふうがい 1874-1945)は竹細工の世界に魅せられ創作活動をしていた際、春挙との交流で蘆花浅水荘の“竹の間”と呼ばれる部屋の主要パーツの制作や調度品を任せられることとなりました。また、名窯膳所焼の復興を目指した岩崎健三(いわさきけんぞう)と協力し、窯を訪れては茶碗に絵付けをするなど深くかかわったようです。
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塾生などによる絵付けされた膳所焼展示
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清水風外作 竹細工展示
多くの画業で忙しく活動する中、狂歌を楽しむことも多かったことがわかります。中島華鳳とのやりとりなど春挙にとって狂歌は交流の手段として大いに遊べた世界のようです。
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山元春挙の狂歌作品展示風景
今回の大津市歴史博物館での企画展は山元春挙をぐるりと囲んだ世界を軸にした展示で、とても頼もしかった人物像がよく理解できます。そしてこの日、少し足を伸ばした膳所の地で旧邸の「蘆花浅水荘」と「膳所焼美術館」も見学することができました。
蘆花浅水荘は現在、円融山記恩寺として公開され、お孫さまが管理されています。(数日前の予約が好ましい)。モダン数寄屋造りともいえる邸宅は正に春挙の人柄がすべて見えるようなしつらえで、和の書院から洋の空間、竹細工や自ら作った回転式岩絵具収納など“生の素材“をここにこう使うんだ!という熱意が満載のものばかりです。あまりの忙しさから自分の時間を守ろうとした小さな隠れ家書院など自分の家だからこだわった様子が良くわかります。
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蘆花浅水荘 入口門
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山元春挙 写真
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好みの空間を自らの作品で飾る
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画室 顔料(岩絵具)キャビネット
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竹の間をのぞむ
ここから徒歩数分の膳所焼美術館では膳所藩のお庭焼としての名窯を復興させた歴史や茶道具の逸品などを拝見できます。今年6月19日までは企画展「復興膳所焼と山元春挙」としていつもより多くの関連作品が並び、そして膳所焼のお茶碗でお抹茶もいただけます。
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膳所焼美術館茅葺門
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お抹茶もいただけます
「大津市歴史博物館」は少し高台にあり、琵琶湖畔を望む風景も美しい場所です。常設コーナーには城下町膳所や商業・鉄道・水運の発達の歴史などがわかりやすく展示されています。山元春挙は地元人気が高いようで、次々と見学者が訪れています。副館長からは、春挙の画を楽しむなら今年4月23日から始まる「滋賀県立美術館」での企画展を是非ご覧いただきたいとメッセージもいただきました。
三井寺や石山寺など花多き古刹も近く、煌めく琵琶湖畔の春は山元春挙と共にやってくるようです。
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春挙や大津絵のグッズもかわいい
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湖畔を渡る風も爽やか
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2022年3月16日 ]
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