自動車や家電、コンピュータ、スマートフォン、SNSなど、いつの時代にも数多く誕生した私たちの生活が一変するようなイノベーション。科学者が生み出したこれらの新しい知識や技術は、デザインを通して人々の元に届いてきました。
科学とデザインの邂逅により今まさに生まれ得る“未来のかけら”を探っていく企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」が、21_21 DESIGN SIGHTで開催中です。
21_21 DESIGN SIGHT 企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」会場入口
展覧会ディレクターは、幅広い工業製品のデザインや、先端技術を具現化するプロトタイプの研究を行っているデザインエンジニアの山中俊治。会場では、専門領域が異なる7組のデザイナー・クリエイターと科学者・技術者のコラボレーションによる多彩な作品が並んでいます。
最初のスペースでは、nomena+郡司芽久による骨格模型を展示。東京2020オリンピックにおける聖火台の機構設計も参画したnomenaと、キリンをはじめとする大型哺乳類の身体構造の進化について研究している郡司芽久のコラボレーションです。
動物の関節に注目した模型は、実際に触って組み立てることも可能で、動かすことで自分自身の関節も同じように動いていることに気が付きます。
nomena+郡司芽久「関節する」
山中と千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)は、美しさを求めてデザインされたロボットを制作。モーターやケーブルをケースで覆って隠すのではなく、骨格構造から美しくデザインされたロボットをスケッチや図面とともに紹介します。また、ロボットの行動がインタラクティブな映像でも映し出されています。
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)+山中俊治「Wonder Robot Projection」(奥) / 「ON THE FLY」(手前)
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)+山中俊治「Robotic World」
村松充は、研究者とデザイナーの二役となって、人間の身体に沿うプロダクトの新しいデザイン手法をシステムから開発しました。今回の展示では立体作品とともに、デザインプロセスを可視化するソフトウェアも体験でき、手をかざすと現れる画面上の腕と仮想的な粒子が描く軌跡を思いのままにつなぐことで、新たな造形のイメージの源が生まれます。
村松 充(Takram)+Dr. Muramatsu「場の彫刻」
隣のブースには、新たな素材・メタマテリアルから生まれたブルゾンが展示されています。一般的には身体のラインに沿わせるためにいくつものパーツを縫い合わせて作りますが、このブルゾンは1枚のパーツをほとんど縫製せずにつくられています。
A-POC ABLE ISSEY MIYAKEによる熱を加えると布が収縮するスチームストレッチ技術と、Nature Architectsが開発したアルゴリズムにより自動で服の折り目を設計する技術の融合により、熱を加えた瞬間に1枚の服が誕生します。
A-POC ABLE ISSEY MIYAKE+Nature Architects「TYPE-V Nature Architects project」
山中の研究はいつもスケッチから始まり、それらに導かれて多くのプロトタイプを生みだしています。会場には山中研究室が約15年間の間に、研究者とともに開発してきたプロトタイプの数々も並んでいます。
新野俊樹とコラボレーションしたのは、付加製造(3Dプリンティング)技術で作り出した模型。微細構造によって同じ素材であっても、特徴的な触感や握り心地などを実現したサンプル群です。
山中研究室+新野俊樹・パナソニック「質感・触感のプロトタイプ」
新野俊樹、臼井二美男と開発したのは、陸上競技用の義足「Rami(ラミ)」です。機能的で美しい義足をより多くの人に供給するために開発され、義足制作のデジタル化を目指すプロジェクトとして、付加製造(3Dプリンティング)技術を使用。バージョンごとに改良を重ね、最新版の金型による樹脂成形では、複雑な内部構造が採用されています。
山中研究室+新野俊樹・臼井二美男「Rami:AM製陸上競技用義足」
稲見自在化身体プロジェクトでは、超スマート社会に適応する新たな身体像「自在化身体」を提案しています。腕や指などのパーツを増やすためのロボットやAI、変身や合体ができるアバターなど多岐にわたる視点で研究をおこなっています。
「自在肢」は装着型ロボットアームシステムで、人間の身体と調和するデザインを追求したもの。隣に展示されている遠藤麻衣子監督による映画『自在』からも、人間がロボットやAIと「人機一体」となり、自己主体感を保持したまま行動することを支援しながら、人間の可能性の拡張を提示しています。
山中研究室+稲見自在化身体プロジェクト「自在肢」
知的好奇心と美的感覚から生み出された“未来のヒント”になる作品たち。山中は「科学の面白さと美しさを見て触って、未来を感じてほしい」と語っています。展覧会の会期は9月8日まで。子どもと一緒に楽しむのもおすすめです。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2024年3月28日 ]