2015年にリリースされてから多くの人気を博し、2017年には流行語大賞にもノミネートされた「刀剣乱舞-ONLINE-」。刀剣の人気はすっかり定着し、ファンにはお馴染みになっていますが、日本刀の基本的な知識や専門的用語についていけない方も多いのではないでしょうか。
静嘉堂@丸の内「超・日本刀入門 revive」は、刀剣に詳しくない方でも楽しめる鑑賞ポイントや魅力を分かりやすく紹介する展覧会です。
静嘉堂@丸の内「超・日本刀入門 revive」会場
まずは、日本刀の種類について。刀として一般的にイメージされやすい、反りのある立体的な「鎬造り」とよばれる太刀の形状は、平安時代中期に生まれたものです。以来、江戸時代末期にいたるまで、時代の要請に応えながら刀の形は変化していきます。
第1章では、直刀、太刀、刀、脇差、短刀、剣、薙刀、槍の8つの種類に分けられる日本刀の中から、5種類が並んでいます。
第1章「日本刀の種類」
鑑賞の第一歩は「全体の姿を見る」ことです。刀身の長さや全体の反りの具合、反りの位置や身幅の広さは刀によって異なり、それぞれ地域や時代の特徴が現れています。
重要美術品 古備前宗安《太刀 銘 備前國宗安》鎌倉時代(13世紀)
続いてのポイントは、刃先の白い部分に現れる模様「刃文を見る」こと。刀剣は、仕上げに刀先を高温で熱してから急冷する「焼き入れ」を行うことで硬度が増しますが、その際に塗られる土の付け方(土置き)によって様々な刃文が生まれます。
身体を上下、左右に動かしながら見ることで、照明の角度も変わり、最も刀工の個性が発揮される刃文の景色や鉄粒子のようすが見えてきます。
一平安代《刀 銘 (一葉葵紋)主馬首藤原朝臣一平安代》江戸時代(18世紀)
鎌倉時代以降、刀剣の生産は東北から九州までの各地域で行われました。日本刀は、慶長初年(1596)を境にして「古刀」と「新刀」と大きく二分して呼び分けられています。古刀の時代は、多くの名工や有力な刀工集団を輩出した5つの主要生産国(山城・大和・相模(相州)・備前・美濃)があり、それらの鍛刀法を「五か伝」と呼んでいます。
第2章では、山城・大和・相模・備前の4つの伝法と、大和伝を基礎にしながら独特の作風を生み出してきた九州・筑前の作風を紹介します。
第2章「名刀のいずるところ」会場風景
古くから鍛冶が発達していた大和国の大和伝は、刀身に通る稜線である「鎬(しのぎ)」が高く、幅広い鎬地と多彩な変化を見せる刃文が特徴です。大和伝の特色が存分に発揮された国宝《太刀 銘 包永》は、鎌倉時代から700年余りの風雪に耐えつつ、地・刃ともに健全な状態を保った代表作です。
国宝 手掻包永《太刀 銘 包永》附 菊桐紋蒔絵鞘糸巻太刀拵 鎌倉時代(13世紀)拵:江戸時代(18~19世紀)
良質な砂鉄や燃料となる松に恵まれた備前国は、平安時代から現代まで最も多くの刃工を輩出し「刀剣王国」として知られています。備前伝の特徴は、刀身の腰のあたりで強く反った姿、鎬地から刃先にかけての平地に霞のような映りがあらわれているところです。
「長光」は備前を代表する刀工の一人で、鎌倉期の刀工の中で現存刀の数や作刀レベルが群を抜いています。長光の前期作とされる《太刀 銘 長光》には、菊唐草文の金無垢金具を用いた豪華な糸巻太刀拵が付帯しています。
長船長光《太刀 銘 長光》附 黄金造桐紋蒔絵鞘糸巻太刀拵 鎌倉時代(13世紀)拵:江戸時代(19世紀)
鎌倉時代後期には美の対象として鑑賞されていたという日本刀ですが、明治時代になると廃刀令の影響により海外へ流出する危機を迎えました。
しかし、静嘉堂創設者・岩﨑彌之助をはじめとする愛刀家たちの尽力により、作品や技術の保護が図られ、現代の日本刀鑑賞の礎が築かれました。 第3章では、静嘉堂所蔵の重要文化財8振を紹介し、その見どころに迫ります。
第3章「きら星のごとき名刀たち ―館蔵の重要文化財」
古備前高綱の名刀に付帯する朱塗りの打刀拵は、織田信長による注文制作と考えられています。戦国末期の様式を伝える作例で、柄頭の金具には「織田木瓜」の家紋とともに信長が将軍・足利義昭から拝領した「桐紋」が配されています。
古備前高綱《太刀 銘 髙綱(号 滝川高綱)》附 朱塗鞘打刀拵 鎌倉時代(12~13世紀)拵:桃山時代(16世紀)
会場には、鎌倉武士たちにも支持された、慶派仏師の作とされる重要文化財《木造十二神将立像》の7軀も並んでいます。
十二神将とは、数千・数万もの夜叉を従え薬師如来の信仰者を守護する仏教の神。もともとは十二支との関係はありませんでしたが、平安時代に2つが結びつき、多様な形で造像されました。各像の顔や髪型、姿勢から十二支の面影が感じられます。
慶派《木造十二神将立像のうち 亥神像》鎌倉時代・安貞2年(1228)頃
4章では、戦国時代から江戸時代初期までの乱世を生きた3人の武将、直江兼続、本多忠為、向井忠勝に愛された名刀が並び、それぞれの武将とのエピソードを知ることができます。
第4章「武将と名刀」会場風景
《刀 大磨上げ無銘(号 後家兼光》は、上重景勝の重臣だった直江兼続の愛刀で、兼光を厚遇した豊臣秀吉の形見分けの際に拝領したものです。身幅の広さや切先の大きな豪快な姿が特徴で、作者銘が刻まれた中心を切り詰めて、短く仕立て直していることから、もとは大太刀だったと考えられています。
展覧会は「刀剣乱舞-ONLINE-」とのコラボにより、会場入口のホワイエに刀剣男士 「後家兼光」の等身大パネルも登場。刀剣と共にお楽しみいただけます。
伝 長船兼光《刀 大磨上げ無銘(号 後家兼光)》附 芦雁蒔絵鞘打刀拵 南北朝時代(14世紀)拵:明治時代(19世紀)
刀剣男士 「後家兼光」の等身大パネル
会場では、刀剣の撮影は可能になっています。初心者の方もさまざまに見比べて自分の推しを見つけて、記念に撮って帰るのはいかがでしょうか。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2024年6月21日 ]