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    レポート
    三島喜美代 ― 未来への記憶
    練馬区立美術館 | 東京都
    キャリア約70年。旺盛に活動する91歳の三島喜美代が東京の美術館で初個展
    三島の代表作、巨大インスタレーション《20世紀の記憶》が広がる3階展示室
    質感や重さが感じられる、リアルな空き缶をさわることができるコーナーも

    まるで本物かのような新聞紙やダンボール、空き缶。現代美術家・三島喜美代(1932-)は、これまで陶土を用いて数々の写実的な立体作品を生み出してきました。

    キャリア70年を超える三島の創作の軌跡をたどる大規模な展覧会が、練馬区立美術館で開催中です。


    練馬区立美術館「三島喜美代―未来への記憶」会場入口
    練馬区立美術館「三島喜美代―未来への記憶」会場入口


    会場は4つの章で構成。1階の展示室、第1章では、初期作品が並びます。

    1950年代に美術家として活動をスタートさせた三島。当時の日本で注目を集めていたのは、存在しないような形体によってつくられる空間構成で生み出されたアンフォルメル風の絵画でした。三島も夫である茂司の影響で抽象絵画に触れ、油彩画にコラージュを取り入れた作品製作を行います。


    第1章「初期作品 1950年代~1970年頃」 (左から《Untitled》1970-71年 アクリル絵具、シルクスクリーン、カンヴァス 《ヴィーナスの変貌V》1967年 新聞、アクリル絵具、シルクスクリーン、合板)
    第1章「初期作品 1950年代~1970年頃」 (左から《Untitled》1970-71年 アクリル絵具、シルクスクリーン、カンヴァス 《ヴィーナスの変貌V》1967年 新聞、アクリル絵具、シルクスクリーン、合板)


    1960年代半ばになると、シルクスクリーンによる転写と油彩を組み合わせたポップアート的な展開もみせます。茂司が集めていた馬券や出走表など、身近なものを用いたコラージュ作品も制作。レース後にはゴミとなるものを貼り合わせ、幾何学模様を構成しています。

    1970年頃になるとくしゃくしゃになった新聞紙に注目し、印刷物を陶を使って立体化する試みを独自ではじめた三島。ここから代名詞である作品群「割れる印刷物」が誕生します。


    第1章「初期作品 1950年代~1970年頃」 (左から《メモリーIII》1971年 馬券、油彩、カンヴァス 《作品68-A》1968年 油彩、カンヴァス)
    第1章「初期作品 1950年代~1970年頃」 (左から《メモリーIII》1971年 馬券、油彩、カンヴァス 《作品68-A》1968年 油彩、カンヴァス)


    《Package'74》1973~74年 滋賀県立陶芸の森 陶芸館
    《Package'74》1973~74年 滋賀県立陶芸の森 陶芸館 陶、転写、彩色


    「情報の化石化」と三島が呼ぶ立体作品は、土を紙のように薄くのばし、シルクスクリーンや手彩色によって陶土の表面に新聞やチラシの文字を転写させ、焼成させてできています。


    第2章「割れる印刷物 1970年頃~」
    第2章「割れる印刷物 1970年頃~」(《リーフレット(赤・青)》2007-08年 陶、転写、彩色 岐阜県現代陶芸美術館 ほか)


    一見ユニークに見えるチラシやコミック、段ボールや飲料ボトル作品ですが、三島にとっては日々大量に作られては捨てられる情報洪水の危機や不安を再認識させることへの挑戦でもありました。


    第2章「割れる印刷物 1970年頃~」 (左から《WORK C-92》1991-92年 陶、転写、彩色 岐阜県現代陶芸美術館  《閉じ込められた情報 B・C》1989年 陶、転写、コンクリート、鉄 個人蔵)
    第2章「割れる印刷物 1970年頃~」 (左から《WORK C-92》1991-92年 陶、転写、彩色 岐阜県現代陶芸美術館 《閉じ込められた情報 B・C》1989年 陶、転写、コンクリート、鉄 個人蔵)


    身近なゴミを題材に陶で再現する一方で、環境への意識を高めていた三島は、再生素材であるガラス状の粉末(溶解スラグ)や廃土を混ぜた土から制作も行うようになります。

    誰かの読みかけのようにも見える開いたまま放置されたコミックブック。高温で容解し固化させた巨大なコミックは、三島の作品の中でも最大級の大きさです。


    第3章「ゴミと向き合う」
    第3章「ゴミと向き合う」(《Comic Book 03-1》《Comic Book 03-2》いずれも2003年 溶融スラグ、転写、彩色 ポーラ美術館 《Comic Book 03-3》2003年 溶融スラグ、転写、彩色 個人蔵)


    展示作品の中でもっとも新しい2022年の作品は、ブリキ缶や鉄くず、廃車のパーツなど以前から収拾していた廃材を取り留めていたもの。一部を塗り直し、文字を描き、パーツを組み合わせたこの作品は、ごみを社会の現実の反映ととらえたもので、三島は「ごみと遊んでいる」という表現をしています。


    第3章「ゴミと向き合う」
    第3章「ゴミと向き合う」(《Work 22-P》2022年 陶、転写、鉄、アルミ、木、ポリプロピレン 個人蔵)


    最後の展示室に床一面に広がっているのは、使い古した耐火レンガを1万個余りを敷き詰めた巨大なインスタレーション。

    レンガの表面一つ一つに転写されている20世紀の新聞記事から、記憶の断片が視覚化されるとともに、時代に向き合ってきた三島の記憶も刻まれているように感じられます。


    第4章「大型インスタレーション」
    第4章「大型インスタレーション」(《20世紀の記憶》1984-2013年 耐火レンガに転写 個人蔵)


    第4章「大型インスタレーション」
    第4章「大型インスタレーション」(《20世紀の記憶》1984-2013年 耐火レンガに転写 個人蔵)


    会場内には「さわれる」コーナーも設置されています。空き缶そのものとは異なる、陶の質感や重さを体験することができます。展覧会は巡回せず、練馬区立美術館のみでの開催です。


    「さわれる」コーナー
    「さわれる」コーナー


    [ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2024年5月18日 ]

    《Work 17-C》2017年 ポーラ美術館
    第2章「割れる印刷物 1970年頃~」
    第2章「割れる印刷物 1970年頃~」
    第2章「割れる印刷物 1970年頃~」
    第1章「初期作品 1950年代~1970年頃」
    《化石になった情報88》1986-88年
    会場
    練馬区立美術館
    会期
    2024年5月19日(日)〜7月7日(日)
    会期終了
    開館時間
    10:00~18:00
    ※入館は 17:30まで
    休館日
    月曜日
    住所
    〒176-0021 東京都練馬区貫井1-36-16
    電話 03-3577-1821
    料金
    一般 1,000円
    高校・大学生および 65~74歳 800円
    中学生以下および 75歳以上無料
    ※一般以外の方(無料、割引対象者)は年齢等の確認できるものを受付にてご提示ください。
    展覧会詳細 「三島喜美代 ― 未来への記憶」 詳細情報
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