ホラー漫画界の鬼才、伊藤潤二(1963-)。緻密で繊細な絵柄と大胆なストーリー展開で、世界中のファンを魅了し続けています。
『富江』『うずまき』などの代表作をはじめとする貴重な原画や資料で、「芸術」と称される“JUNJI ITO”ワールドの全貌に迫る展覧会が、世田谷文学館で開催中です。
世田谷文学館「伊藤潤二展 誘惑」会場入口
世界で最も権威のある漫画賞のひとつである米国アイズナー賞を通算4度も受賞するなど、日本のみならず海外でも高い評価を得ている伊藤潤二。
その作品は「ムードのあるホラー」。じわじわと心理的に圧迫していくような作風が特徴といえます。
序章「JUNJI ITO」
伊藤潤二は1963年、岐阜県中津川市生まれ。歯科技工士として勤務する一方で、漫画家・楳図かずおに作品を読んでもらいたい一念で、「月刊ハロウィン」(朝日ソノラマ)の新人漫画賞「楳図賞」に投稿。1986年に投稿作『富江』が住作を受賞してデビュー、代表作になりました。
『富江』は美しさと醜さが共存し、物語はコミカルな描写も交えつつ進んでいきます。その世界観は多くの読者に衝撃を与え、その後の伊藤作品の大きな特徴のひとつになりました。
第1章「美醜」
第1章「美醜」
ストーリーが進むに連れて奇想天外な展開を見せることが多い伊藤潤二の作品ですが、その入口はごくありふれた日常の風景からスタートします。
幼い頃に暮らしていた中津川市の木造の長屋には、半地下のような奇妙な空間や、家具などがしまわれた「開かずの間」があったという伊藤。リアリティあふれる描写は、自らの恐怖体験がベースになっているのです。
第2章「日常に潜む恐怖」
第2章「日常に潜む恐怖」
小学生の頃に見た特撮映画から影響を受けたという伊藤。特に1950〜70年代に活躍したハリウッド映画の特殊クリエイター、レイ・ハリーハウゼンが手がけた映画に感銘を受け、感性を磨いていきました。
読む人の五感に訴えるような伊藤ならではの恐怖の描写は、幼い頃に敬愛した作品群から培われていきました。
第3章「怪画」
第3章「怪画」
展覧会の最後は、伊藤自身について。伊藤は3歳でTVアニメ『悪魔くん』に出会い、劇中に登場する怪物に心を惹かれ、画用紙を綴じて漫画本を作るなど、幼少期から漫画に親しんできました。
伊藤は犬や猫とともに暮らしてきたため、動物は作品にもしばしば登場しますが、「可愛い」だけではない描写も見られます。
第4章「伊藤潤二」
第4章「伊藤潤二」
一本一本の毛の描写など、独特のこだわりが見てとれる伊藤潤二の世界。世界中にファンがいるというのも納得できる、まさに唯一無二の世界観です。
会場1階ではグッズも販売中。様々なアイテムが用意されています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年4月26日 ]