《一重切花入 銘 藤浪》《三彩壺》《織部縞文四方鉢》。それぞれ、小堀遠州による花入、中国・唐時代の壺、江戸時代の美濃焼の器と、時代も種類も違いますが、共通点は作品名に数字が入っていること。
日本や東洋の美術品では、数字が入っている作品名をしばしば目にします。
作品名の数字に着目しながら、「かぞえうた」のように古美術を読み解いていく企画展が、根津美術館で開催中です。
根津美術館「古美術かぞえうた-名前に数字がある作品-」会場入口
作品名に入る数字にはいくつかの意味がありますが、まずは「形の特徴や技法の種類を示す数字」から。
《青磁一葉香合》は、文字通り1枚の木の葉をかたどった香合です。型抜きの技法で成形され、葉脈まで表現されています。
安政2年(1855)の「形物香合相撲」のランキングで、西前頭7枚目に入っている人気の香合です。
《青磁一葉香合》中国・明時代 17世紀
《鳥獣唐草蒟醤十角蓋物》は、十角形の容器です。身と蓋だけでなく、高台まで十角形になっています。
竹ひごを編んだ素地に塗った黒漆地を彫刻刀で彫り、そこに朱漆を埋めてから平滑に研いで文様をあらわすという、複雑な工程でつくられています。
《鳥獣唐草蒟醤十角蓋物》東南アジア 16~17世紀
並んだ釜は、奥が八角形、手前が四角形です。
《八角尾垂釜》は、各側面に中国の名勝・瀟湘八景を、押絵貼りの屏風のようにあらわした釜。
《太虚庵四方釜》は、背面に「鷹峯山 大虚庵」の文字があります。大虚庵は本阿弥光悦が晩年に居住した庵室なので、光悦になんらかのゆかりがある釜と思われます。
(左から)《八角尾垂釜》室町〜桃山時代 16世紀 / 《太虚庵四方釜》江戸時代 17世紀
続いて「書(描)かれた内容をあらわす数字」が入っている作品です。
《蔵鋒二大字》は、江戸後期を代表する儒者・詩人・歴史家で、『日本外史』を著した頼山陽による書。京都に住んでいた45歳の山陽が、備後(岡山県)の旅宿で書きました。
《夢一字》は、京都・大徳寺第二百十一世の一渓宗什が「夢」を、その上部に狩野常信が2頭の蝶を描き加えた作品です。『荘子』を出典とする「胡蝶の夢」をあらわしています。
(左から)《蔵鋒二大字》頼山陽筆 江戸時代 文政7年(1824)小林中氏寄贈 / 《夢一字》一渓宗什筆(絵 狩野常信筆)江戸時代 17世紀 小林中氏寄贈
《七夕蒔絵》は、中国における七夕行事である、乞巧奠(きっこうでん)の飾りにまつわる文様で装飾された硯箱です。
蓋表は梶の葉を散らし、冊子と料紙。蓋には竹製の棚に置いた梶の葉と、水を張った角盥(つのだらい)。懸子(かけご)には、短冊を結んだ笹、糸巻きに巻いた糸、束ねた糸が表現されています。
《七夕蒔絵》江戸時代 18世紀
続いて「仏教美術にあふれるさまざまな数字」。さまざまなほとけたちが登場する仏教では、釈迦三尊や阿弥陀三尊など、数字が含まれる作品名はおなじみです。
重要文化財《釈迦多宝二仏並坐像》は、釈迦如来と多宝如来が並び坐している姿をあらわした像。宝塔に乗って出現した多宝如来が、釈迦を自席の隣に招き入れたという『法華経』の所説にもとづいています。
重要文化財《釈迦多宝二仏並坐像》中国・北魏時代 太和13年(489)
いろいろな数字の作品をご紹介しましたが、最後は展示作品中で最大の「百万」が入った作品です。
《百万塔》は、恵美押勝(藤原仲麻呂)の乱(764年)の平定後に、称徳天皇によって発願された 100万基の小塔です。10の寺に10万基ずつ納められました。
《百万塔》奈良時代 8世紀
気軽に、楽しく鑑賞できる企画展。あわせて展示室5では、明治政府により近代化が推し進められた激動の時代を生きた東京の工芸家の作品を紹介する「江戸→東京 ―駆け抜ける工芸―」も開催中です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年5月31日 ]