名刀をイケメンに擬人化したオンラインゲーム「刀剣乱舞(とうらぶ)」のリリースは2015年、「刀剣女子」は同年の新語・流行語大賞のノミネートされました。だいぶ日はたちましたが、今でも刀剣の展覧会で若い女性の姿を見かける事は少なくありません。
三井記念美術館蔵の国宝の短刀「日向正宗(ひゅうがまさむね)」も、擬人化された名刀のひとつ。本展は館蔵の名刀を中心に、刀装具や甲冑、武将の画像や大名家伝来の茶道具や雛道具などを紹介していきます。
美術館入口前にも、刀剣乱舞「日向正宗」のパネルが
まず展示室1は「武将の茶道具」。武将や大名とかかわりのある館蔵の茶道具が展示されています。
《大井戸茶碗 銘須弥(別銘十文字)》はその名が示すように、十文字に四分割された茶碗。継いだ跡がくっきり見えます。大きい茶碗を切り割って小さくしたのは古田織部とされており、織部の「破格の美」を体現した茶碗として有名です。
《大井戸茶碗 銘須弥(別銘十文字)》朝鮮時代・16世紀
奥の展示室2には、重要文化財《粉引茶碗 三好粉引》。戦国時代を巧みに渡った梟雄、三好長慶が所持した事から「三好粉引」の名で呼ばれます。
その後、豊臣秀吉から金森家を経て、江戸時代の中頃に北三井家の所蔵に。幕末頃に若狭小浜藩主の酒井家に譲られましたが、大正12年に買い戻されており、三井家のこだわりが感じられます。
重要文化財《粉引茶碗 三好粉引》朝鮮時代・16世紀
お目当ての刀剣は展示室4「刀剣と絵画」からです。
展覧会のメインである国宝《短刀 無銘正宗 名物日向正宗》は、正面ケースで展示。正宗は日本の刀剣史上、もっとも有名な刀工のひとりで、日向正宗は刀身に銘こそありませんが、古くから正宗の代表作として知られる名刀です(そもそも正宗の作に銘が入っているものは稀です)。
「日向」の名前は、石田三成から妹婿の福原直高に与えられ、関ケ原の合戦の際、東軍の水野日向守(ひゅうがのかみ)勝成が手に入れたことに由来します。
国宝《短刀 無銘正宗 名物日向正宗》鎌倉時代・14世紀
三井記念美術館蔵でもう一つの国宝の刀剣が、《短刀 無銘貞宗 名物徳善院貞宗》。豊臣秀吉が所持し、五奉行の一人である前田徳善院玄以(げんい)が拝領したため「徳善院貞宗」と称されます。その後は、徳川家康が所持し、紀州徳川家、西条松平家から、北三井家に至ります。
正宗の実子とも養子ともいわれる貞宗。この短刀のように、刀身に彫刻がある作品が多いのも特徴のひとつです。
国宝《短刀 無銘貞宗 名物徳善院貞宗》鎌倉~南北朝時代・14世紀
重要文化財《薙刀 銘一》は、備前福岡一文字派の薙刀。三井記念美術館蔵の重要文化財の薙刀はこの1点のみですが、鎌倉時代まで遡る薙刀は珍しく、鎌倉時代の特徴がよく保たれた貴重な作例です。
重要文化財《薙刀 銘一》鎌倉時代・13世紀
小さな展示室6でも、刀剣の拵(こしらえ)を展示。《葵唐草文漆絵小脇指 》は、国宝短刀「日向正宗」の拵です。鞘は黒漆塗で、さらにその上に黒漆で葵唐草文が描かれています。金具の細工も精巧です。
《葵唐草文漆絵小脇指 (国宝短刀「日向正宗」の拵)》江戸時代
最後の展示室7は「絵画・能面・甲冑」。亀岡規礼による《酒呑童子絵巻》や重要文化財の旧金剛宗家伝来能面も展示されていますが、ここでは象彦による硯箱・料紙箱をご紹介。平家物語「宇治川の先陣」を主題にしたもので、高蒔絵を基調に、武具は精巧な彫金金具、人や馬の目はガラス象嵌です。
象彦(六代西村彦兵衛)《宇治川先陣蒔絵硯箱・料紙箱》明治時代・19~20世紀
幕府や紀州徳川家の御用商人として栄えた三井家。明治以降は華族との婚姻も加わった事で、公家・武家ともに深い繋がりが生まれました。改めて三井の「蔵の深さ」が実感できる展覧会です。
鑑賞に際しては、招待券や中学生以下など無料枠の方も含め、すべての方がオンラインでの事前予約が必要です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年11月20日 ]