日本の「もの派」を代表する作家として、国際的にも大きな注目を集めてきた現代美術家、李禹煥(リ・ウファン、1936 年生)の大規模な回顧展を開催。
韓国の慶尚南道に生まれ、ソウル大学入学後の 1956 年に来日した李は、その後、東京の日本大学で哲学を学び、東洋と西洋のさまざまな思想や文学を貪欲に吸収しました。
そして、1960 年代から現代美術に関心を深め、60 年代後半に入って本格的に制作を開始。
視覚の不確かさを乗り越えようとした李は、自然や人工の素材を節制の姿勢で組み合わせ提示する「もの派」と呼ばれる動向を牽引しました。また、すべては相互関係のもとにあるという世界観を、視覚芸術だけでなく、著述においても展開しました。
1969 年に美術出版社芸術評論賞で入賞した「事物から存在へ」などに示された深い思考は、「もの派」の理論的支柱にもなりました。
李の作品は、芸術をイメージや主題、意味の世界から解放し、ものともの、ものと人との関係を問いかけます。それは、世界のすべてが共時的に存在し、相互に関連しあっていることの証なので
す。奇しくも私たちは、新型コロナウィルスの脅威に晒され、人間中心主義の世界観に変更を迫られています。李の思想と実践は、未曾有の危機を脱するための啓示に満ちた導きでもあります。
近年の李は、ますます国際的に活躍し、グッゲンハイム美術館(ニューヨーク、アメリカ合衆国、2011 年)やポンピドゥー・センター・メッス(メッス、フランス、2019 年)など、世界の名だたる美術館で個展を開催してきました。
一方、国内では、2010 年に香川県直島町に建築家、安藤忠雄の設計で李禹煥美術館が開館しましたが、国内の美術館の大規模な個展としては、2005 年の横浜美術館での「李禹煥 余白の芸術」展が最後となります。
こうした状況を受けた本展覧会は、東京では初めてとなる大規模な回顧展として開催されます。「もの派」にいたる前の視覚の問題を問う初期作品から、彫刻の概念を変えた「関係項」シリーズ、そして、静謐なリズムを奏でる精神性の高い絵画など、代表作が一堂に会します。
また、李の創造の軌跡をたどる過去の作品とともに、新たな境地を示す新作も出品される予定です。