ブリヂストン美術館として1952年に開館し、今年で70年となるアーティゾン美術館。
これまでの歩みを約170点の作品と資料で紹介する展覧会が、同館で開催中です。
アーティゾン美術館「はじまりから、いま。」会場入口
アーティゾン美術館は6階から、5階、4階と進む動線。今回は全館を使った展覧会で、それぞれの階で1章ずつの構成です。
第1章は「アーティゾン美術館の誕生」。アーティゾン美術館は5年間の休館と館名変更を経て、2020年1月に開館しました。
会場冒頭にはこれまでに開催されたポスターが並びます。最近はあまり名前を聞かなくなったアーティストもあり、興味深く感じられるコーナーです。
ブリヂストン美術館とアーティゾン美術館で開催された展覧会のポスター
アーティゾン美術館を運営しているのが、石橋財団。1956年に石橋正二郎によって設立され、以来、現在に至るまで継続して作品収集を進めています。
1998年に石橋財団の第3代理事長・石橋幹一郎の現代美術コレクションが寄贈されたことから、抽象芸術の展開が感じられる作品を収集。
アーティゾン美術館の新たな試みとして始められた「ジャム・セッション」展に出品された鴻池朋子と森村泰昌の作品も収蔵されました。
鴻池朋子《襖絵》(地球断面図、流れ、竜巻、石)(部分)2020年
第2章は「新地平への旅」。戦後のパリ画壇で確固たる地位を築いた中国出身の画家ザオ・ウーキーを、石橋幹一郎は高く評価していました。財団には現在、19点のザオ・ウーキー作品がありますが、うち13点は幹一郎が個人的に収集したものです。
長さ3.7m を超える中国紙に墨で描かれた大作《無題》(1982年)は、14年ぶりの展示。この作品も、幹一郎が自ら収集したもののひとつです。
(左から)ザオ・ウーキー《07.06.85》1985年 / ザオ・ウーキー《水に沈んだ都市》1954年 / ザオ・ウーキー《無題》1982年
展覧会のみどころのひとつが《平治物語絵巻 常磐巻》。新しく収蔵された作品で、本展で初公開となります。
作品は「平治物語」の終盤を、全長16mに渡って描いた絵巻。鎌倉時代の制作で、描かれているのは平清盛、常盤御前、牛若など。各所にやまと絵の特徴がみられます。
《平治物語絵巻 常磐巻》(部分)鎌倉時代 13世紀 重要文化財
最後は、第3章「ブリヂストン美術館のあゆみ」。石橋財団コレクションの基礎になったのは、1961年に寄贈された石橋正二郎の個人コレクションです。
日本近代洋画と西洋近代美術を中心とするコレクションを築いた正二郎ですが、欧米の美術館・博物館を数多く視察したことで古代美術にも関心を拡げ、美術館の開館後も積極的に収集を進めています。
(右手前)ギリシア《ヴィーナス》ヘレニズム時代( 紀元前323-30年)
正二郎は自身が好んだフランス印象派をはじめとする西洋近代美術も精力的に収集しました。
正二郎が最初期に購入した西洋絵画は、シニャックの水彩画。コロー、マネ、ピサロ、シスレー、モネ、セザンヌ、ゴーガン、ゴッホ、マティスなど、さまざまな作品が並びます。
(左奥から)ポール・セザンヌ《帽子をかぶった自画像》1890-94年頃 / ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》1904-06年頃
正二郎がコレクションを進めるきっかけになったのが、洋画家の坂本繁二郎。坂本は、正二郎が小学生だった時に図画の代用教員でした。
ふたりは後に再会。坂本は同郷の青木繁の作品散逸を惜しんでおり、正二郎に作品の収集を依頼。これに正二郎が応じたことが、現在のコレクションに繋がったのです。
正二郎は10年あまりかけて《海の幸》など青木の代表作を熱心に購入。事業の拡大にともなって東京に転居してからは、藤島武二の作品も集めるようになりました。
当時、藤島は画壇の長老格。正二郎は藤島からの信頼も得て、藤島が最期まで手放そうとしなかったイタリア時代の作品を託され、これらはブリヂストン美術館草創期コレクションの核になりました。
(左から)藤島武二《天平の面影》1902年 重要文化財 / 青木繁《海の幸》1904年 重要文化財
ブリヂストン美術館の開館とほぼ同時にスタートした土曜講座はすでに2300回を超えるなど、確固たる伝統に支えられたアーティゾン美術館。
古代美術から現代アートまで、改めてそのコレクションの幅を実感できます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年1月28日 ]