「美を結ぶ。美をひらく。」をミュージアムメッセージに掲げて活動しているサントリー美術館。古いものと新しいもの、東洋と西洋など、異なるものが結びつき、そしてひらいていくことで、魅力的な美に繋がります。
リニューアル記念の第3弾となる今回の展覧会では、日本美術を軸に、江戸時代から1900年パリ万博まで約300年を対象に、選び抜かれたコレクションを紹介していきます。
冒頭は展覧会を象徴する2点から。欧州の王侯に愛された六角形の《色絵花鳥文六角壺》は、明るい花鳥文が印象的。鮮やかなブルーの《藍色ちろり》は、把手にはヴェネツィアの、蓋のつくりには中国・北宋の影響が見て取れます。
(左手前から)《色絵花鳥文六角壺》江戸時代 17世紀 / 《藍色ちろり》江戸時代 18世紀
第1章は「ヨーロッパも魅了された古伊万里」。17世紀後半以降、本格的に輸出されるようになった古伊万里。それまで欧州で人気を博した中国磁器に代わって、王侯たちの心を捉えました。
並んでいるのは、瓢箪形の水注です。瓢箪は、アジア各地で身近な生活道具の材料として用いられ、特に中国では「子孫が万世に続く」という意味の吉祥主題でもありました。
(左奥から)《染付人物文ケンディ》(野依利之氏寄贈)17世紀 / 《色絵葡萄鳥文瓢形水注》江戸時代 17世紀 / 《染付人物文瓢形瓶》(野依利之氏寄贈)17世紀
輸出古伊万里の中には、六角形や八角形に面を取った飾り壺があります。面取りの蓋付壺の歴史を辿ると、古代中国の青銅器「方罍」なども同種といえ、とても長い歴史がある事が分かります。
(左手前から)《色絵獅子鈕波鷹文大壺》江戸時代 18世紀 / 重要文化財《色絵花鳥文八角大壺》江戸時代 17~18世紀
第2章は「将軍家への献上で研ぎ澄まされた鍋島」。三代将軍家光の頃、佐賀藩から徳川将軍家への献上磁器として誕生した鍋島焼。200年以上に渡って藩窯で生産された事から、その美は洗練さを増していきました。
まずはそのデザインに注目。円形の皿に直前的なモチーフを入れると、バランスを取るのが難しくなりますが、《色絵組紐文皿》では縁に沿って組紐を配することで、外に向かうような力強さが生まれています。
(左から)《色絵牡丹文皿》江戸時代 17~18世紀 / 《色絵組紐文皿》江戸時代 17~18世紀
「墨弾き」は、素焼きした皿の表面に、白抜きしたい文様を描き、その上から染付の濃を施すことで、墨描き部分が染付を弾いて白く残る、という技法。《染付雲雷文大皿》は、中心から縁に向かって墨弾きによる紗綾形文が回転しながら大きくなっており、まるで皿が発光しているかのように見えます。
《染付雲雷文大皿》江戸時代 17~18世紀
第3章は「東アジア文化が溶け込んだ琉球の紅型」。15世紀から19世紀にかけて繁栄した琉球王国は、中国や日本、東南アジアとの交易で、独自の文化が醸成されました。
型紙を用いて模様を染める紅型衣装は、その代表格です。日本から輸入された奉書紙に柿渋をひいて型地紙とし、豆腐を乾燥させた台「ルクジュー」を下敷きにして、小刀で模様を掘り出します。
(右手前)《芒に雁模様白地型紙》19世紀[展示期間:12/16~1/18]
華やかな色彩には、海外から輸入された色材も用いられました。身分によって着用できる色が決まっており、黄色は最も高貴な身分の人が使う色です。
鳳凰、龍、桜、松など多彩な模様にも、アジア各地からの影響が見て取れます。
(左から)《黄色地松枝垂桜燕模様裂地》19世紀 / 《水色地牡丹桜に連山流水模様裂地》19世紀 / 《白地牡丹唐草模様裂地》19世紀[すべて展示期間:12/16~1/18]
第4章は「西洋への憧れが生んだ和ガラス」。16世紀中頃、ポルトガルやスペインの船からもたらされたガラス器。日本人はヨーロッパのガラス器に憧れ、17世紀中ごろになると、自分たちの手でガラスの器を作るようになりました。
江戸時代の吹きガラスは、型の中でガラスに息を吹き込んで成形する型吹き技法で作られたものが数多くあります。型吹き技法でつくられた器の表面には、型に触れた面にできるわずかな凹凸が「型肌」として残り、独特の表情を産んでいます。
(手前中央)《緑色葡萄唐草文鉢》江戸時代 18世紀 / (右)《紫色菊唐草文鉢》江戸時代 18世紀 / (左奥)《青色菊形向付》六口のうち 江戸時代 18世紀
薩摩では十代藩主・島津斉興がガラス製造をはじめ、その子・斉彬により本格化しました。薩摩切子は藩の特産品として採算を度外視して生産されたため、その完成度は極めて高く、高級な贈答品として珍重されました。
(左手前)《薩摩切子 紅色被栓付瓶》江戸時代 19世紀中頃 / (右奥)《薩摩切子 紅色被碗》江戸時代 19世紀中頃
第5章は「東西文化が結びついた江戸・明治の浮世絵」。江戸を代表する美といえる、浮世絵版画。プロデューサーとしての版元を中心に、流行を敏感にとらえた作品が次々に生み出され、幅広い階層の人々を惹きつけました。
《品川青楼遊宴図》は、品川宿の妓楼を描いた作品。現在は高層ビルが立ち並ぶ品川ですが、この作品には潮干狩りをする人々も描かれています。
(左手前から)鳥文斎栄之《品川青楼遊宴図》江戸時代 寛政初期(1789 ~1801) / 鳥文斎栄之《御殿山花見》江戸時代 18~19世紀[ともに展示期間:12/16~1/18]
一方の《東京浅草観世音並公園地煉瓦屋新築繁盛新地遠景之図》は、幕末維新期の開化絵。浅草寺の周辺には洋風建築が立ち並び、洋傘や帽子姿の人もいます。この時期に入ってきた鮮やかな赤の輸入染料が多用されているのは、この時代の浮世絵の特徴といえます。
歌川重清《東京浅草観世音並公園地煉瓦屋新築繁盛新地遠景之図》明治19年(1886)[展示期間:12/16~1/18]
そして最後は第6章「異文化を独自の表現に昇華したガレ」。エミール・ガレは、アール・ヌーヴォー期を代表するフランスの芸術家。アール・ヌーヴォーでは、従来は「小芸術」とみなされてきた家具、食器、照明などにも目が向けられ、空間全体が総合的にデザインされました。
(左から)エミール・ガレ《ランプ「ひとよ茸」》1902年頃 / エミール・ガレ《飾棚「森」》1900年頃
自然から着想した作品を数多く残したガレ。植物、昆虫、動物などが生息し、自然そのものである森は、ガレの芸術の原点ともいえます。
新収蔵品の《壺「風景」》は、森を表現した作品。立体的な青黒い木々の向こうには、抽象化された人里の風景。暖色の表現は、灯りをイメージしているのかもしれません。
エミール・ガレ《壺「風景」》1900年頃
磁器、染織、ガラス、浮世絵で最適な色温度を設定するなど、細かな配慮もあり、とても見やすい展示空間です。国や時代、素材を越えて結び、ひらいた6つの美の世界をお楽しみください。お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年12月15日 ]