神戸市立博物館で、考古・歴史・美術・古地図などの分野を超えてコレクションを紹介する展覧会が開催中です。
展覧会のタイトルは「つなぐ」。新型コロナの影響を受けて世界中で失われつつある「つながり」を、人々の想いがつまったコレクションを通じて考えていく企画です。
神戸市立博物館 外観
第1章「過去と未来 PAST AND FUTURE」では、過去~現代~未来と、人間の意識や感性をダイレクトに「つなぐ」資料から。
《三千仏図》に描かれているのは、左から阿弥陀如来、釈迦如来、弥勒如来。それぞれが過去・現在・未来を象徴しており、小仏もあわせて全ての仏が描かれた早大な絵画です。
重要文化財の狩野内膳《南蛮屏風》は、神戸市立博物館が誇る名品のひとつ。日本とスペイン・ポルトガルの南蛮貿易を鮮やかな色彩で描写。肩を組み、酒を酌み交わす姿からは、濃密なつながりが見てとれます。
《三千仏図》暦応元年(1338)福祥寺(須磨寺)蔵
重要文化財 狩野内膳《南蛮屏風》 桃山時代、16世紀末期~17世紀初期
第2章は「視えるものと視えないもの VISIBLE AND INVISIBLE」。
目に見えるところだけが、世界の全てではありません。いにしえの人々は、目に見えない世界にも人を超えたなにものかが存在し、それらとの「つながり」を求めてきました。
伎楽は、大陸から伝来した芸能。《伎楽面 崑崙》は見開いた目と、大きな口、剥き出しになった牙が印象的です。崑崙(こんろん)は、人間と非人間の狭間ともいえる存在。仮面を被る事にも、神秘的な側面があります。
複製ながら、銅鐸も展示(原品はコレクション展示室で公開中)。元は金色に輝き、神秘的な力を宿していた銅鐸。国宝「桜ヶ丘銅鐸」には、同じ鋳型で製作され各地で出土した「兄弟銅鐸」が知られています。
《伎楽面 崑崙》奈良時代末~平安時代初期、8世紀末~9世紀初 網敷天満宮蔵
《同じ鋳型でつくられた銅鐸(兄弟銅鐸)》(複製)原品:弥生時代中期、紀元前2世紀~紀元前1世紀
第3章は「場と記憶 PLACE AND MEMORY」。場所を特定しても、その地点のイメージは人それぞれ。土地にはそこで育まれてきた歴史が、複層的に積み重なっています。
《須磨寺参詣曼陀羅》に描かれているのは、源氏物語の光源氏や菅原道真、平敦盛の供養塚など。須磨という場所が育んできたさまざまな事象が表現されています。
《湊川大合戦図》は、楠木正成が足利尊氏・直義と激突した「湊川の戦い」を描いた錦絵。迫力あふれる作品ですが、実際の戦いの布陣とは異なっています。
(左から)《須磨寺参詣曼陀羅》桃山時代、16世紀末 福祥寺(須磨寺)蔵 / 《一遍上人絵伝断巻》永徳元年(1381)頃
《湊川大合戦図》歌川芳廉 弘化4年(1847)~嘉永5年(1852)
第4章は「人と世界 HUMAN AND UNIVERSE」。私たちを取り巻く世界が、どのような形をしているのか。いつの時代でも、多くの人が想像を巡らせてきたテーマです。
《世界大相図》の中央に描かれた山は、仏教でいうところの「須弥山」。宇宙の中心にあり、四天王が守護しています。我々が住む世界は、南閻浮提(なんえんぶだい)という小さな島として表現されています。
重要文化財《四都図・世界図屏風》は、西洋絵画の技法を学んだ、日本の絵師による作品。「四都図」にはリスボン、セビリア、ローマ、コンスタンティノーブル(イスタンブール)の町と王侯が、「世界図」には世界地図とともに活発な航海の模様が描かれています。
《世界大相図》武都道本山下存統誌 文政4年(1821)
重要文化財《四都図・世界図屏風》から「四都図」 江戸時代、17世紀初期
第5章は「人と人 HUMAN AND HUMAN」。人は一人で生きていくことはできません。家族、恋人、師と弟子…。たとえ「新しい生活」が求められても、人と人との繋がりは、社会の必然といえます。
《天台四祖図》は、中国天台の四祖を描いた珍しい作品。左上から時計回りで、章安大師・灌頂、妙楽大師・湛然、天台大師・智顗、南岳大師・慧思と思われます。師から弟子へと、仏法は連綿と受け継がれてきました。
《池長美術館長像》は、小磯良平による作品。育英商業学校(現・育英高校)の校長を務めた池長孟は南蛮美術を収集して池長美術館を設立。後にコレクションは神戸市に寄贈され、現在の神戸市立博物館の中核になりました。池長からはじまる人と人との繋がりこそ、この展覧会の原点です。
(左から)酒井抱一《ヒポクラテス像》文化7年(1810)賛 / 《天台四祖図》暦応元年(1338)福祥寺(須磨寺)蔵
小磯良平《池長美術館長像》昭和19年(1944)
最後の第6章は「心の奥へ DEPTH OF HEART」。「魂」や「心」を強く感じさせる作品です。
荒々しい作品《風の中の鴉》を手がけたのは、神戸出身の彫刻家・柳原義達。柳原は鴉をとおして「生きている不思議さ」を表現したいと語っていました。
右隻に祇園社、左隻に上賀茂社が描かれた《花下群舞図》。花と酒に興じる人々はありふれた光景ですが、生活が一変した私たちにとっては、とても心に響きます。
柳原義達《風の中の鴉》昭和56年(1981)
《花下群舞図》桃山時代、17世紀初期
考古、仏教美術、近世美術、歴史と、分野が異なる学芸員らによる「つながり」から生まれた本展。大切な文化財を次代につないでいくのは、今を生きる私たちの責務です。
※ご入場はオンラインによる事前予約をお願いしています。予約枠に空がある場合は、予約なしでもご入場いただけます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年12月4日 ]