「アール・ヌーヴォー」と聞いて、ごく普通の人が思い付くのはアルフォンス・ミュシャのポスターや、エミール・ガレのガラス器など。「アール・ヌーヴォーの陶磁器」は、これまであまり紹介されませんでした。
会場は、和のイメージが強い
三井記念美術館。一昨年に開館以来はじめて
「デミタスコスモス」展が開催されましたが、それ以来2度目の西洋美術展となります。
会場冒頭は「ベストセレクション」として、厳選した作品を紹介。三井記念美術館ならではの贅沢な空間が、アール・ヌーヴォーの陶磁器を引き立てます。
展示室1~2は「ベストセレクション」展覧会は5章構成、まずはフランスの名窯、セーヴルからです。創業以来、輝かしい歴史を歩み、現在でもヨーロッパを代表する窯のセーヴルですが、19世紀後半は時代の変化に対応仕切れず、苦戦を強いられていました。
改革に乗り出したセーブルが導入したのが、新硬質磁器。従来に比べて加飾の際の制約が少ない素材に、上絵付などで華やかな装飾を加えて、1900年のパリ万国博覧会に出品。「アール・ヌーヴォーの勝利」と謳われたこの世紀末の大博覧会において、華麗なる復活を遂げました。
第1章 フランス名窯の復活 ~フランス セーヴル~アール・ヌーヴォーの陶磁器において、技術的な特徴といえるのが釉下彩(ゆうかさい)です。釉薬の下に描くこの技法は耐久性に優れるとともに、しっとりとした質感は独特の仕上がりを生み出しました。
いち早く釉下彩を用いた作品を1889年のパリ万博に発表したのは、デンマークのロイヤル・コペンハーゲンです。同じくデンマークのビング&グレンダールは彫塑的な作品を制作。スウェーデンのロールストランド、ノルウェーのポルシュグルンも釉下彩を用いて、魅力的な作品を数多く作っています。
第2章 釉下彩の先駆者 ~北欧・ロイヤル・コペンハーゲン、ビング&グレンダール、ロールストランド、ポルシュグルン~ヨーロッパの名窯を紹介する企画ですが、第3章は日本で作られた陶磁器。アール・ヌーヴォーは東洋美術の影響を受けた様式ですが、1900年のパリ万博を経て、日本にも逆輸入されました。
前述した釉下彩の研究も、ヨーロッパだけではなく日本でも進んでいました。研究を牽引したのが、お雇い外国人のドイツ人化学者、ゴットフリート・ワグネル。ワグネルの指導の下、日本でも釉下彩の絵付け表現は飛躍的に発展し、いわば「日本のアール・ヌーヴォー磁器」ともいえる一群が生れています。
第3章 東洋のアール・ヌーヴォー ~日本~フランスのセーブルが称賛された1900年のパリ万博ですが、逆に辛酸をなめたのが、ドイツのKPMベルリンやマイセン。前代の歴史主義的な作品を展示し、時代の波を掴めなかったのです。ただ、製作の現場は意欲的で、その後は再び飛躍する事に成功しています。またオランダのローゼンブルフはこの万博で磁器を初出品。フォルムと絵付けは注目を集めています。
西洋陶磁を新たな段階に引き上げた技術として、窯変釉や結晶釉もあげられます。もともと中国陶磁に見られたもので、西欧の各窯で競うように技術開発。予測不能な変化を生ずる窯変釉、釉薬のなかで花が咲いたような結晶釉と、中国陶磁とは異なるスタイルで表現が進化していきました。
第4章 新たなる挑戦者 ~ドイツ・オランダ KPMベルリン、マイセン、ニュンフェンブルク、ローゼンタール、ローゼンブルフ~ / 第5章 もう一つのアール・ヌーヴォー 釉薬の妙技 ~結晶釉、窯変釉~ちょうどこの時期には
サントリー美術館でも「
オルセー美術館特別協力 生誕170周年 エミール・ガレ」が開催中。半券提示で300円引きのタイアップ企画も行われています(他の割引との併用は不可)。この夏は2つの展覧会でアール・ヌーヴォーに浸ってください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年7月5日 ]■アール・ヌーヴォーの装飾磁器 に関するツイート