「都市とアートとミライのお祭り」をテーマに、約30組のアーティストが約40のプログラムを実施する「六本木アートナイト2024(以下、RAN)」が今年も開催されました。
参加アーティストの皆さん(コアタイム・キックオフセレモニーにて)
例年では5月末の週末に開催されますが、今年はやや涼しくなった9月末の開催です。開催場所は、六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館などです。
今年から新プログラム「RAN Picks」、「RAN Focus」が加わりました。オールナイトではなく、夕方~夜をコアタイムとする3日間(9月27日(金)~29日(日)にわたっての開催となりました。
片岡真美(森美術館館長)六本木アートナイト実行委員長挨拶
「RAN Picks」とは、RANが注目するアーティストを複数選出し、展示するプログラムです。今年は、アトリエ シス、ジェニファー・ウェン・マ、髙橋匡太などが選出されています。「RAN Focus」とは、特定の国、地域にフォーカスを当て、そこで活躍するアーティストによるプログラムを披露します。今年は、「台湾」にフォーカスを当て、メイメージダンス、ウォーターメロン・シスターズ、ユェン・グァンミンなどの作品が披露されます。
それでは、開催場所ごとに主なプログラムを紹介します。(プログラム数が多いので、レポートを前編と後編に分けています)
六本木ヒルズ
今年も、六本木ヒルズアリーナで行われるパフォーマンスが盛りだくさんです。9月27日(金)は「台湾ナイト」、28日(土)は「ライトナイト」、29日(日)は「ミュージックナイト」と銘打たれ、それぞれ趣向を凝らしたパフォーマンスなどが披露されました。
メイメージダンスの《沈黙の島―新たなる楽園―》は、とてもカラフルで力強いパフォーマンスです。大きくしなる長いポールの先に乗ったダンサーが体を揺らし、様々なポーズをとり、東洋的なダンスを繰り広げます。衣装を見ると、ヨーロッパにルーツのあるデザインも取り入れられ、東洋と西洋の文化の入り混じる現代の台湾の状況を表現しているようです。
演出で驚かされたのは、事前に申込みをした鑑賞者の一部(体験型鑑賞者)が舞台に上がり、まるでエキストラの役者のように、歩き回りながらダンスを鑑賞することです。この演出により、不規則に動く観客が舞台のスリリングさを強めています。
実は、今回のパフォーマンスは、2017年に初演されたパフォーマンスをRANのために短く再構成し、上演するものです。オリジナルのパフォーマンスの続きの一部は、RAN Focus [Taiwan] 特別上映会《沈黙の島―新たなる楽園―》で見ることができます。おそらく、RANのパフォーマンスだけを見た鑑賞者、特別上映会だけを見た鑑賞者、両方を見た鑑賞者では、作品の印象が大きく異なると思います。機会があれば、オリジナルのパフォーマンスを鑑賞したいと思います。
メイメージダンス《沈黙の島―新たなる楽園―》
ウォーターメロン・シスターズの《スイカ姉妹 六本木降臨!》も大変な熱狂ぶりです。最初は振袖のような衣装で登場し、数回の衣装チェンジをしながら、パフォーマンスは進み、観客もとても大きな歓声を上げています。終演後にサイン会も行われ、ファン・サービスがてんこ盛りです。
先に鑑賞したメイメージダンスと同じく、現代社会の混沌とする様子が、とても華やかに表現されていると思います。
ウォーターメロン・シスターズ(西瓜姉妹)《スイカ姉妹 六本木降臨!》
パフォーマンスだけでなく、現代アートを取り巻く状況について、トークセッションも開催されます。RAN Focus [Taiwan] スペシャル・トークでは、「いま台湾アートが熱い理由(ワケ)」と題して、台湾当代文化実験場(C-LAB)をはじめ、活気にあふれる台湾のアート・シーンの様子が、RANのために来日したキュレーターやアーティストにより語られます。
トークの中で、アートを発展させるためのエコシステムをどのように整備していくか、それが大切だという意見があり、とても共感するところがありました。 特にテクノロジー系のアートは、機材にも、試作にも経済的な負担が大きいので、何らかの支援がないと、先端的な作品を作り続けることは難しいという話は、時折、見聞することがあります。
RAN Focus[Taiwan]スペシャル・トーク いま台湾アートが熱い理由(ワケ)
アオイツキ&上野雄次の《ヒッチハイカー季節》は、演劇のような、朗読劇のような、ダンスのようなパフォーマンスです。登場人物は、季節の「夏」と「秋」、おそらく「時間」です。 なぜ、季節は「春→夏→秋→冬」の順番に巡るのか、なぜ、「夏」と「秋」が同時に到来してはいけないのか、思いがけない問答が繰り広げられます。
30分ずつの前編と後編の構成で上演されますが、こちらもメイメージダンスと同様、両方見るか、どちらかだけを見るかで、大きく印象が変わると思います。
アオイツキ&上野雄次《ヒッチハイカー季節》
幕間にアート作品を見に行きます。
ツァイ&ヨシカワの《豊穣の宝石-Reflection》は、巨大な光の生け花、もしくは花火のようです。作家ステートメントによれば「私たちの彫刻とアートインスタレーションは、光と空気の動きと相互作用する触媒であり、夢と希望を生み出す物理的な形」なのだそうです。
その場に居合わせた作家によれば、上階から見下ろすこともおすすめだそうです。蓮の花が水面に映るように、電子の花がつややかな黒色の台に映りこむ様子を鑑賞できます。
ツァイ&ヨシカワ《豊穣の宝石 ‒ Reflection》
国際芸術祭「あいち2025」と「岡山芸術交流2025」のPRブースも出ていました。
高層ビルの合間に展開される超都市型のアートのお祭りであるRANに対し、開催エリアが都市部から郊外まで広がり、空間的な余裕がある国際芸術祭「あいち2025」と「岡山芸術交流2025」では、RANとは異なる作家、作品が鑑賞できることを期待したいところです。
PRブース(国際芸術祭「あいち2025」、「岡山芸術交流2025」)
参加体験型のパフォーマンスもあります。悪魔のしるしの《いっしょに「搬入プロジェクト」》では、参加者と一緒に制作した巨大な「物体」を担いでビルの中に搬入します。「物体」は通路の幅や天井の高さに合わせ、ぎりぎりのサイズで作られているので、向きを変えたり、回転させたり、皆さんで工夫をして搬入します。
悪魔のしるし《いっしょに「搬入プロジェクト」》 搬入完了
悪魔のしるし《いっしょに「搬入プロジェクト」》 記念撮影
今回のRANで楽しみにしていたパフォーマンスがエレクトロニコス・ファンタスティコス!の《六本木丘電磁盆踊り》です。
注目は、廃家電を再生した不思議な楽器たちです。たたいて鳴らす非常ベルのように使い方のわかりやすい楽器もあれば、どうやって音を出しているのか、まるでわからない楽器もあります。
下の写真のキーボードのような楽器(バーコードベース)の演奏者が右手に持っているのは、スーパーやコンビニのレジでおなじみのスキャナーです。スキャナーでバーコードをなぞると「ピッ」と鳴るのではなく、音階になります。他にもブラウン管テレビのドラム、電気スタンドの三味線など、家電として見たことはあるけれど、その使い方は初めて見るものばかりです。
エレクトロニコス・ファンタスティコス!《六本木丘電磁盆踊り》
ともあれ、RANのフィナーレは、《六本木丘電磁盆踊り》で盛り上がります。大勢の参加者がアリーナに集まり、踊っています。親子で参加し、汗びっしょりで踊っている方も、仮装している方もいます。
エレクトロニコス・ファンタスティコス!《六本木丘電磁盆踊り》
街なかでの開催ということで、音量的には抑え気味の演奏です。それでも、六本木の夜と盆踊りを十分に楽しめます。さて、次はどこの芸術祭でエレクトロニコス・ファンタスティコス!の演奏を聴くことができるでしょうか。
PRブースの出ていた国際芸術祭「あいち2025」と「岡山芸術交流2025」は、どちらも広い野外空間を開催エリアに含むようです。どちらかのオープニング・アクトで《電磁演奏会》を聴けたら、おもしろいと思います。
[ 取材・撮影・文:ひろ.すぎやま / 2024年9月26日 ]
→ 六本木アートナイト2024(レポート 後編)