これから100年後、未来の人びとに向けて過去や現在をどのように伝えていくのか。「歴史」に焦点を当てながら未来への手がかりを考察する展覧会が、国立歴史民俗博物館ではじまりました。
国立歴史民俗博物館「歴史の未来―過去を伝えるひと・もの・データ―」会場入口
古くから人びとは、過去の出来事にさまざまな意味を見出してきました。第1章「過去への注目」では古代からの記憶として、日本で最初に編まれた勅撰史書『日本書紀』を活字開版の一つとして刊行した神代巻を紹介しています。
第1章「過去への注目」 右:日本書紀神代巻 国立歴史民俗博物館蔵
江戸時代になると歴史の編纂が盛んになり、近世にはより多様な過去への探究が行われました。先祖が暮らした土地や家の来歴を示す記録、各地の歴史・文化を継承していく資料は、時に戦争や災害、大規模な開発によって消滅の危機に直面することもありました。
国立歴史民俗博物館は戦後、国立の歴史系・民俗系博物館の設置を求める声が具体的な構想へと展開されて、1983年に誕生しました。第2章「過去の消滅 ~危機との対峙~」では、歴博誕生前夜における社会状況や学術団体、地域社会の様々な思惑や活動についても紹介しています。
一方、過疎化が進行する現代社会では、地域における歴史資料の継承が大きな課題となっています。各地域で多様な担い手により保存・継承に向けた模索が行われ、新たな意義を見出す試みも進められています。
第2章「過去の消滅 ~危機との対峙~」 幟 門川町教育委員会蔵
例えば、常陸太田市天神林町文殊院東泉寺では2019年に、護国・除災の経典として中世に広く転読されていた「大般若経」が発見されました。これらは、茨城史料ネットによって整理・調査がおこなわれ、地域をとりまくさまざまな状況が明らかになっています。
歴史文化の継承には、資料所有者や地域住民などとの対話が重要です。常陸太田市では資料の点検作業として、書物や美術品などの虫干しをする「曝涼(ばくりょう)」の作業を所蔵者や地域住民、大学等と連携し、文化財を理解してもらう取り組みも進めています。
第2章「過去の消滅 ~危機との対峙~」
「歴史的」とされるものは、決して遠い過去に限ったものだけではありません。第3章「現代という過去 ~経験の記録~」では、現代社会のなかに広がっている歴史資料を紹介します。
1995年に起きた阪神・淡路大震災では、写真や映像、音声、文章や絵など、一般の人がさまざまな形で体験を記録していました。「震災資料」の取り組みは、人びとの災害経験を歴史として見出すものでもあります。
第3章「現代という過去 ~経験の記録~」
第3章「現代という過去 ~経験の記録~」
いまだ私たちの記憶に新しい、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックについても紹介しています。消毒やマスク着用の貼り紙、アルコール容器などの取り組みは、どのような過去として記憶され、伝えられていくのでしょうか。
第3章「現代という過去 ~経験の記録~」
第4章「情報技術の誕生と資料理解の変化」では、歴史資料にコンピュータを活用することについてみていきます。これまで国立歴史民俗博物館では、歴史資料のデジタル化を進めてきました。
会場では、16世紀の京都の風景を示した重要文化財「紙本著色洛中洛外図屏風」を、原本とともに大型の4Kタッチパネルディスプレイで見ることができます。
第4章「情報技術の誕生と資料理解の変化」 重要文化財「紙本著色洛中洛外図屏風 (歴博甲本)」右隻 国立歴史民俗博物館蔵 展示期間10/8~11/10 ※11/12~12/8は 重要文化財「洛中洛外図屏風(歴博乙本)」を展示
日本の歴史資料の国際化も進んでいます。また、3DデータやAIを活用することにより、デジタルでは再現することができなかった「本物ならでは」も体感することが可能になってきています。
第6章「未来の歴史資料像と博物館」では、実際に着ることができない江戸時代の小袖をバーチャル空間で試着できるシステムを設置。モニターに手を振ると小袖の柄や向きの切り替えができます。
第6章「未来の歴史資料像と博物館」
日頃はなかなか見ることのできない、国立歴史民俗博物館での多様な研究を紹介した展覧会。2124年に伝えたいものは何かを考えながら鑑賞するのもおすすめです。11月9日の歴博の講演会は事前申込み不要・無料、先着順(定員240名)のため、当日来館した方も参加可能です。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2024年10月7日 ]