江戸の浮世絵師、葛飾北斎(1760~1849)。90年という生涯のなかで、浮世絵師として活躍した時期はおよそ70年に及びます。その間、北斎は、役者絵や美人画、洋風画、歴史画、花鳥画、武者絵、そして摺物、狂歌絵本や読本の挿絵、肉筆画など「浮世絵」におけるほぼすべての題材を手がけました。
しかし、とりわけ北斎の名を不動にしているのは「赤富士」「大波」などを含んだ「冨嶽三十六景」46枚連作の存在です。この作品は、発表当時から人気を集め、浮世絵に名所絵(風景画)のジャンルを定着させる要因となりました。
「冨嶽三十六景」の刊行が終了すると、北斎は、さらに多くの図版を持つ『富嶽百景』に着手しました。『富嶽百景』は半紙本3冊によって構成された絵本です。3冊分102図それぞれに富士山をあしらい、故事説話を取り入れた北斎の独創性が見事です。
本展では、この北斎の二大富士「冨嶽三十六景」と『富嶽百景』のすべてをご覧頂きます。「冨嶽三十六景」は保存状態の極めて良い作品を含めて、いわゆる「表富士三十六図」と「裏富士十図」の全作品が揃っており、非常に質の高いコレクションです。一方の『富嶽百景』はこれまで、和綴じ本のため全作品を展示することは困難でしたが、今回は一図ごとに額装して御紹介いたします。
この機会に二大富士を通して、北斎芸術の新たな魅力を再発見していただければ幸いです。