壺の中の妖精、花に宿る愛らしい少女の顔・・・。
はかなげで時に危うい気配すらのぞかせる、ちょっと不思議なキャラクターたちは、ロマンチックな乙女世界を描き大正から昭和初期にかけて爆発的な人気を博した加藤まさをが、その活躍の初期に手がけたものです。
立教大学在学中の大正8(1919)年、上方屋平和堂から出版された絵はがきでデビューしたまさをは、少女雑誌を舞台にアンニュイでセンチメンタルな風情の乙女像をくりかえし描き、「まさを調」というイメージを確立したのですが、本展では、「まさを調」が生まれるより前、そのみずみずしい感性がほとばしる、初期絵はがき作品に特に重点を置いています。花びらに包まれた妖精、愛くるしい小さな子ども、机や樹木、果ては地面にまでも大胆にしなだれかかる嘆きの乙女たちは、ただ「かわいい」というだけでは収まりきらない、どうにも腑に落ちないような奇妙な余情を醸し出し、私たちの視線を惹きつけて離しません。
これらの絵はがきには、にじみやぼかしといった透明水彩独特のあわく微妙な色調を美しく再現する、当時最先端の印刷技術が用いられている点も重要です。この最新技術の導入と使用インクへのこだわり様は、私製絵はがき大ブーム時代における出版者と受容者双方の熱狂ぶりを体現しており、本展は、大正乙女たちの「絵はがき文化」を理解するという点においても、画期的な展覧会だと言えるでしょう。
今回は、大正期を中心とする加藤まさをの絵はがきや挿絵、楽譜、詩画集とともに、竹久夢二、小林かいち、高畠華宵、中原淳一、蕗谷虹児ら、大正・昭和初期の抒情画家たちの「乙女デザイン」とも言うべき作品、併せて約190点をご紹介いたします。この機会に、ぜひ、香りたつ大正ロマンの世界をご堪能ください。