仏教を国教としていた高麗。各地には寺院が建てられ、美しい仏画も数多く描かれました。ただ、高麗に代わった李氏朝鮮が儒教を重んじたため、情況は一変。明治初期の廃仏毀釈で日本美術の優品が欧米に渡ったように、高麗仏画は多くが日本に渡りました。現存する高麗仏画は約165件、うち110件近くは日本にあります。
今回の展覧会は、泉屋博古館との共同企画。泉屋博古館の《水月観音像》と根津美術館の《阿弥陀如来像》(ともに重要文化財)など仏画26件をはじめ、あわせて38件の絵画・工芸作品を紹介するものです。
高麗仏画の特徴としてあげられるのが「原色を用いた鮮明な色彩」「金泥による効果的な金線(日本の仏画に見られる截金:きりかねは使わない)」「余白を残ずびっしり描いた文様」など。根津美術館の《阿弥陀如来像》にも、その傾向は顕著です。
重要文化財《阿弥陀三尊像》1306年(大徳10年・忠烈王32年) 根津美術館蔵水月観音像は、高麗を代表する仏画。泉屋博古館の《水月観音像》は典型例で、水辺の岩に観音が半跏坐で腰掛け、傍らに柳と浄瓶、対岸には善財童子に配されるのが定番です。仏法を求めるため53人の善知識(賢者)を訪ね歩いた善財童子が28番目に訪れた相手が、慈愛に満ちたこの観音でした。
高麗仏画では図像がほぼ同じ作例がしばしば見られます。その理由は王室や貴族など限られた階層の人々が、特定の祈願成就のために、同時に大量に制作させた事から。本展でも、似た図像の水月観音像が並んで紹介されています。
重要文化財《水月観音像》徐九方筆 1323年(至治3年・忠粛王10年) 泉屋博古館蔵会場最後の《万五千仏図》は、高麗の超絶技巧です。遠目には、くつろいだ姿の観音菩薩だけが目に入りますが、よく見ると、小さな仏がびっしりと描き込まれています。袈裟から表装部分まで、金泥や墨で描き分けられた小仏だらけ。相当小さいので、お持ちなら単眼鏡があった方が良いかと思います。
《万五千仏図》13世紀 広島・不動院蔵高麗仏画に焦点を当てた展覧会は、1978年に大和文華館(奈良)で開催された「高麗仏画 ─ わが国に請来された隣国の金色の仏たち ─」が初めて。近年では、韓国の国立中央博物館(2010年)や、本展の京都展が昨年(2016年)末に泉屋博古館で開催されましたが、意外にも東京での開催は初めてです。日本の仏画とはひと味違う、優雅で静謐な高麗仏画の世界をお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年3月3日 ]■高麗仏画 香りたつ装飾美 に関するツイート