ロンドンにあるコートールド美術館。日本での知名度は高いとはいえませんが、イギリスが世界に誇る印象派・ポスト印象派の殿堂です。
作品がまとめて国外に貸し出される事は滅多にありませんが、同館が改修工事に入ったため、大規模展が実現。日本では1998年の「コートールド・コレクション展」(日本橋高島屋など)以来、約20年ぶりとなります。
出品作品は約60点と、数はあまり多くありませんが、巨匠が描いた重要な作品ばかり。西洋絵画好きにはたまらない、豪華な展覧会です。ここでは目に付いた作品を少しだけ、ご紹介しましょう。
まずはポール・セザンヌ。コートールドが最も多くの作品を購入したのがセザンヌで、油彩11点のほか、水彩画や手紙なども蒐集しました。
セザンヌはカード遊びをする労働者を何点も描いていますが、《カード遊びをする人々》もそのひとつ。低すぎる肩、長すぎる脚などは、解剖学的な正しさよりも、画面の調和を優先した結果です。
展覧会メインビジュアルの《フォリー=ベルジェールのバー》は、エドゥアール・マネ最晩年の傑作。マネが没する前年、1882年のサロンで発表されました。
フォリー=ベルジェールはパリのミュージック・ホールで、多彩な催し物が庶民に愛された娯楽場でした。本作は、その一角にあるバーが舞台。中央のメイドは、どことなく物憂げな様子です。
構図や主題も含めてさまざまな解釈がありますが、卓越した空間表現と魅力的なメイドが、強く印象に残ります。
続いて、ピエール=オーギュスト・ルノワール。1922年に収集を開始したコートールド夫妻が、最初に購入した2点のうち1点がルノワールでした(もう1点はジャン・イポリット・マルシャン Jean Hippolyte Marchand)。
《桟敷席》は、ルノワールが第1回印象派展に出品した記念すべき作品です。コートールドの収集で、最も高額な作品のひとつでもあります。
最新ファッションで着飾った女性が集う劇場の桟敷席は、大衆雑誌やファッション誌ではしばしば取り上げられていますが、絵画のテーマとしては画期的でした。
最後にポール・ゴーガン。コートールドがポスト印象派の作品として初めて購入したのが、ゴーガンの油彩画2点でした。
《ネヴァーモア》は、ゴーガン二度目のタヒチ滞在時に描かれたもの。「横たわる裸婦」は西洋絵画の定番といえる画題ですが、この作品からは生々しさがあまり感じられません。
本展は図録もオススメです(2,500円)。主要作品は透明シート付きで解説されるなど、凝った構成。展覧会の図録は堅苦しい論文が目立ちますが、読者ファーストの姿勢はありがたいです。
東京で開幕した巡回展で、愛知県美術館(2020年 1/3~3/15)、神戸市立博物館(3/28~6/21)に巡回します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年9月9日 ]
作品は全て © Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)