20世紀前半のモダン・アートを代表するアーティスト・カップル、ゾフィー・トイバー=アルプ(1889-1943)とジャン・アルプ(1886-1966)。
抽象芸術の先駆者としてのトイバー=アルプの多面的な創作活動を日本最大規模で紹介するとともに、二人の対等なパートナーシップを共同制作を通じて再考する展覧会が、アーティゾン美術館で開催中です。

アーティゾン美術館「ゾフィー・トイバー=アルプとジャン・アルプ」会場入口
ゾフィー・トイバーはスイスのダヴォス生まれ。応用芸術と美術を横断する教育を受け、第一次大戦を機にスイス・チューリヒへ移り、刺繍や木工で活動し、教職にも就きました。
一方のジャン・アルプは、現在のストラスブール生まれ。ドイツで伝統的な美術教育に馴染めず、詩と造形を探求。戦争を避けてチューリヒに移り、抽象作品を発表しました。
ふたりは1915年の展覧会で出会い、共通の美学を通じて交流を深めていきます。

第1章「1886/89-1918 形成期と戦時下のチューリヒでの活動」
戦後、アルプはダダの活動を続け、トイバーもその文脈で紹介されつつ応用芸術に邁進。ふたりは1922年に結婚しました
アルプはパリへ移住し、シュルレアリスム展にも参加。トイバー=アルプは建築プロジェクトに関わり、ストラスブールの「オーベット」などで空間デザインを手がけました。二人は創作の場をパリ南郊クラマールに移し、互いに影響を与え合いながら活動を続けていきます。

第2章「1919-1929 越境する造形ー空間の仕事とオブジェ言語」

第2章「1919-1929 越境する造形ー空間の仕事とオブジェ言語」
トイバー=アルプは油彩画を始め、幾何学的抽象の「セルクル・エ・カレ」「アプストラクシオン=クレアシオン」に参加。アルプはシュルレアリスムと抽象の間で自らの芸術を確立し、偶然性を取り入れた作品を展開し、二人の共同制作「デュオ=デッサン」も生まれました。
戦火を避けて南仏へ疎開するも、1943年にトイバーが事故で急逝。二人のパートナーシップは突然幕を閉じることとなります。

第3章「1930-1943 前衛の波の間で ― 各々の探究とコラボレーション」

第3章「1930-1943 前衛の波の間で ― 各々の探究とコラボレーション」
アルプはトイバー=アルプを偲び、詩と版画のコラボレーションを通じて喪失と向き合います。1947年には彫刻制作を再開し、アメリカでの評価も高まりました。
アルプはトイバー=アルプの木彫作品をブロンズで鋳造するなど、その遺産を未来へ繋ぐべく尽力。1954年にはトイバー=アルプの回顧展が開催されたことで、彼女の再評価も進みました。

第4章「1943-1966 トイバー゠アルプ没後のアルプの創作と「コラボレーション」」

第4章「1943-1966 トイバー゠アルプ没後のアルプの創作と「コラボレーション」」
展覧会では、二人の芸術的探究と創造の軌跡をたどり、個と共同の表現が生み出した独自の世界を明らかにしていきます。美術とデザイン、詩と造形が交錯する場をお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年2月28日 ]