名古屋市東区にある横山美術館。
こちらでは、名古屋がかつて海外へ輸出される陶磁器生産の一大拠点だったことから、明治・大正時代に制作された輸出陶磁器の“里帰り品”を中心に所蔵しています。
2月9日からは、目にする機会が少ない「隅田焼」をコレクションを展示する企画展「奇想の輸出陶磁器 隅田焼の世界」が開催されているということで、行ってきました。
横山美術館外観
立体的な造形が魅力の「隅田焼」
企画展は横山美術館の4階で開催され、会場には約260点の隅田焼の作品が展示されています。
隅田焼は、江戸情緒を感じさせる町人や子ども、僧侶や猿などのエキゾチックなモチーフを立体的に造形し、器面に張り付けた炻器質の焼き物です。 「高浮彫」と呼ばれる技法で、陶磁器に人間や動物の立体的な人形が張り付けてあるのがとても印象的でした。
高浮彫僧侶水指
「高浮彫群猿花瓶」は、無数の猿たちが鏡台に群がっている様子を表現しています。 1匹1匹猿の人形が丁寧に作られていました。
作品を見ながら、どんなシーンなのか物語を想像するのも楽しいです。
高浮彫群猿花瓶
色や形も個性豊か
立体的に表現された人形以外にも隅田焼には魅力があります。
1つは色です。隅田焼は釉薬をかけず露胎とした部分には、上絵具を焼き付けるのではなく、赤や黒などの塗料を塗って仕上げています。これは隅田焼の創始者である井上良齊が、瀬戸市出身で上絵付の技術が発達していなかったこと、一方で輸出するにあたり東洋をイメージさせる漆の色を求めた結果だと考えられています。
また形は、現代アートのような個性的なものが多くありました。制作した職人が固定概念にとらわれず、新しい形にチャレンジしていたのがわかります。
作品展示風景
写実的な象がかわいい
たくさんの作品の中で私が気になったのは、象をモチーフにした隅田焼です。
隅田焼には象の人形を貼り付けた陶磁器がいくつかありますが、空想上の生き物のような曖昧なデザインの象ではなく、写実的に形づくったリアルな表現が特徴です。
学芸員の原さんに話を聞くと、東京の上野動物園では明治21年に象の飼育を始めており、隅田川西岸でつくっていた職人が実物を見てモデルにしたのではないかと話していました。 象をモチーフにした作品はどれも素敵だったので、皆さんも会場で注目してみてくださいね。
高浮彫象花瓶
癖になる味わいがある隅田焼
隅田焼には、人形の表情の細かさや、表現されているシーンの面白さなど、見れば見るほどハマる魅力がありました。
1人でじっくり鑑賞するのも、誰かと一緒にどんな場面か想像して意見を交わすのも楽しいと思います。
企画展は5月12日まで開催されています。
企画展会場風景
[ 取材・撮影・文:浦野莉恵/ 2024年2月27日 ]
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