岐阜県美術館で「クロスアート4 ビロンギング 新しい居場所と手にしたもの」展が始まりました。本展には、世界的に注目される岐阜県出身の5名の若手作家が参加しています。
作品数は少なめですが、平面、立体、映像、インスタレーションと、多彩な作品で構成されています。会期中には、担当学芸員によるトーク、ナンヤローネ アートツアー、ナンヤローネ アートアクションも企画されているので、興味のある関連プログラムに参加してはいかがでしょうか。関連プログラムの詳細はは岐阜県美術館webページをご覧ください。
美術館入口
松山智一
描かれた人物や背景の室内の様子が、とてもカラフルです。気になったのは、画面の輪郭がどれも四角形ではなく、とても複雑な曲線で構成されていることです。もう一つ、描かれた人物のポーズが決まりすぎていて、人形のように見えることです。
展示風景 松山智一 左から《New Life Bonus Track》2019 《寛容に思いも寄らない》2018 《Nostalgic Remind Signal》2023
不思議なのは、きれいな室内に食べかけのポテトチップスの袋や、お皿にのせた新巻鮭の頭が置かれていることです。日常の一場面を切り取ったスナップショットのような体裁ですが、演劇公演の宣伝パンフレットのように多くの伏線が隠されているようです。
ギャラリートークでは、どのように読み解くのか聞いてみたいと思います。
展示風景 松山智一 左から《Hello Open Arms》2023 《Blue Monday Frost》2023
松山の作品は、JR新宿駅東口のロータリーにも巨大な銀色のパブリックアートが設置されています。最近では、弘前れんが倉庫美術館でも個展が開催されました。
後藤映則
「彫刻と映像を掛け合わせながら動きや流れを浮き上がらせる」と聞いて、どのような作品が展示されているか、想像できますか。まるで手品を見ているような印象です。言葉足らずな説明をするより、ぜひ見に行ってください、と言いたい作品です。
後藤は、つい先ごろまで開催されていた札幌国際芸術祭2024にも参加しています。彼の作品を見た人は、そのアイディアの奇抜さに驚かされると思います。
公花
抽象的な模様に染められた大きな布のインスタレーションかと思いきや、写実的ではないにしろ現実の生物が描かれていると聞いて驚きました。 公花は、西サハラのメルフファを素材にして作品を制作しています。
展示風景 公花
西サハラは「アフリカ最後の植民地」とも呼ばれ、50年近く紛争状態にあります。紛争状態なので「表現の自由」も制約が大きく、他の作家とは制作の苦労の種類が違うようです。
アーティストトークを聞いた印象では、社会活動家か環境活動家の報告を聞いているようで、とてもエネルギッシュな作家だと思います。
アーティストトークの様子
本展の会期中、名古屋の矢場町のハートフィールドギャラリーでも個展が予定されています。(2024/4/17~4/28)美術館の大きな空間とは違い、居室に近いギャラリー空間に展示されるメルフファのコラージュは、また違った表情を見せてくれると思います。
山内祥太
一見すると、カラフルなモーフィング映像に見えますが、よくよく見ると相当にグロテスクな作品です。画面上部から人物の顔のイメージが下りてきて、上向きに置かれたマネキンの頭部のようなパーツに覆いかぶさると同時に、顔のイメージの四辺がダラリと下側に垂れ下がります。
展示風景 山内祥太 左から《カオ2》2021 《カオ1_Waterfall》2021
潜在的な多重人格の表出か、SNSなどにあふれる大量の情報の流れに溺れてしまいそうな人々を表現しているかのようです。
もうひとつの煙の流れを映した映像作品と、その脇に置かれた大きな風船のインスタレーションも、意味ありげな組み合わせです。しばらく見ていて、人工培養されるアンドロイドと彼が見ている夢を垣間見ているように感じました。
展示風景 山内祥太 左から《 ラテックスオブジェ 》 2024 《 Apparition 》 2023
山内は、2022年末から2023年初めに開催された森美術館のMAMプロジェクトにも《カオの惑星》という映像作品を出品しています。
横山奈美
仰向けに寝そべる少女が、ずらりと並んでいます。ここまで、かなり先鋭的な作品が続いたので、何やらほっと息抜きできる空間です。横山の代表作のネオン管シリーズの大きな作品も出品されています。
展示風景 横山奈美 《forever》2021 (部分)
平面だけでなく、ブロンズの少女像も出ています。横山の作品で、彫刻らしい立体を見た覚えがないので、とても新鮮な印象です。
展示風景 横山奈美 左から《Remembering Someone in the Distance》2024, 《 Shape of Your Words [in Gifu.2024.10.14-10.25]》2023-2024
文字にすると、どの部分も「I am」ですが、とても多くの「私」が画面の中で主張していて、明るく光る部分と、その影の部分の対比が面白いと思います。さて、横山は、光を描いたのでしょうか、それとも影を描いたのでしょうか。
本展を見るまで、岐阜県の出身と知らずにいた作家もいました。それも含め、いろいろと発見のある展覧会でした。これからも定期的に、地元の個性的な作家たちを紹介していただきたいと思います。
[ 取材・撮影・文:ひろ.すぎやま / 2024年3月30日 ]