春のお出かけ日和となったこの季節。根津美術館では、この時期恒例となっている、尾形光琳の国宝《燕子花図屏風》を展示する企画展が開催中です。
今回は《燕子花図屛風》がもつ日本美術が古来から内包してきたデザイン性や装飾性に注目し、デザインの観点から日本美術を見直していきます。
「国宝・燕子花図屏風 デザインの日本美術」会場風景
《燕子花図屛風》は、和歌を中心に構成された『伊勢物語』の一場面をもとに制作された作品です。
書芸術だった和歌は、絵画と造形的な結びつきを深め、多彩な展開をみせてきました。会場では文字と色と形を融合させたのは、デザインの力が大きいことがよく分かります。
《尾形切(業平集断簡)》伝 藤原公任筆 平安時代 12世紀 根津美術館
右隻に爛漫の桜、左隻に錦繍の紅葉が画面に描かれた《吉野龍田図屏風》。木の枝や水面に翻る短冊には、奈良の吉野と龍田、桜と紅葉の名所を詠んだ和歌が書かれています。従来は短冊に書かれていた和歌が、絵の中でデザイン化された作品です。
(左)《吉野龍田図屏風》江戸時代 17世紀 根津美術館
会場の奥に展示されているのが《燕子花図屛風》。在原業平が燕子花の名所・八橋で都に残した恋人を思って歌を詠む『伊勢物語』の一場面を描いたとされている作品です。金地に群青と緑青のみを用いて、現代のグラフィックデザインにも通じる意匠的な構成で描かれています。近くによったり、また椅子に腰かけながら、じっくり鑑賞することができます。
《燕子花図屛風》尾形光琳 江戸時代 18世紀 根津美術館
日本の絵師の仕事には、調度や工芸の装飾も含まれていました。光琳も、弟で陶芸家である尾形乾山の作品に意匠の提供を行っていました。第2会場では、絵画と蒔絵、染織の間で展開されるデザインの交流をみていきます。
《銹絵染付金彩絵替土器皿》尾形乾山作 江戸時代 18世紀 根津美術館
色とりどりの着物が描かれた《誰が袖図屏風》。人物の姿は見えませんが、右隻には女性の小袖、左隻には子どもと男性の衣装が衣桁に掛かっています。この作品の作者は不明ですが、技法が分かるほど精密な衣装の描写から、染織の制作工房が近い関係にあったと推測できます。
《誰が袖図屏風》江戸時代
会場を鑑賞した後は、燕子花も咲いている庭園の散策もおすすめです。例年、ゴールデンウイークが見頃になっています。
根津美術館 庭園
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2024年4月12日 ]