1966年、帝劇ビルの9階にオープンした出光美術館。ビルの建替計画にともない、2024年12月を最後にしばらく休館となります。
58年前の開館記念展の出品作品と展示構成を意識しながら、コレクションの中から厳選された優品を紹介する展覧会が同館で開催中です。
出光美術館「復刻 開館記念展 ─ 仙厓・古唐津・中国陶磁・オリエント」会場 出口にはフォトスポットも
1966年10月29日に始まった出光美術館の開館記念展。美術館の創設者である出光佐三(1885-1981)が10代のころから蒐集し愛蔵してきた、仙厓の書画、古唐津、中国の陶磁や青銅器、オリエントの美術を紹介するものでした。
展覧会はその開館記念展の内容をもとにした企画。まずは古唐津の展示からはじまります。
「一楽、二萩、三唐津」と呼ばれるように、茶陶を代表する焼き物である古唐津(唐津焼)。出光佐三はその魅力にひかれ、300件を超える古唐津を蒐集しました。《絵唐津丸十文茶碗》は、佐三自身が「丸十の茶碗」と呼んで茶を飲むのに愛用していたものです。
《絵唐津丸十文茶碗》唐津 桃山時代 出光美術館
出光コレクションの原点といえる仙厓は、開館当初は仙厓室だった展示室2で紹介されています。質・量ともに国内最大級の仙厓コレクションから、開館当初の展示室を飾った約20件が並びます。
仙厓の作品のなかで最も有名なものとして知られるのが、3つの図形を組み合わせた《◯△☐》。ただ、それが何を意図しているのかははっきりせず、最も難解な作品としても知られています。
〇は禅宗、△が真言宗、☐が天台宗とそれぞれの宗派を象徴しているとする説や、仏教・儒教・神道(あるいは道教)の三要素を表しているという説、密教の教理に照らした三大要素という説、修行の過程を3つの段階で表現している説など、諸説が乱立しています。
(左から)《坐禅蛙画賛》仙厓 江戸時代 出光美術館 / 《◯△☐》仙厓 江戸時代 出光美術館 / 《堪忍柳画賛》仙厓 江戸時代 出光美術館
続いて中国陶磁。佐三は1910年代後半頃に大連で中国陶磁の穏やかな美に癒され、その後、北京や天津の骨董屋で中国陶磁を手に入れました。美術館のコレクションのなかでも、早い段階から蒐集が進められたジャンルです。
《釉裏紅芭蕉文水注》は、やや発色にムラがあるものの、鮮やかな紅色の水注。官窯の銘こそありませんが、その姿には洪武様式の景徳鎮官窯の特徴が現れています。
《釉裏紅芭蕉文水注》景徳鎮官窯 中国 明・洪武時代 出光美術館
中国陶磁と同様に、オリエントの美術も開館当時から高い評価を受けていました。エジプトやメソポタミア文明の発祥地として知られるオリエント地域では、豪華な金銀器や色鮮やかなガラス器、装飾性豊かな陶磁器など、見事な美術工芸品がつくられています。
《ラスター彩人物文鳥首水注》は、ラスター彩の優品として名高い水注です。注口を鳥首形に造形するスタイルは古くから西アジア地域で好まれ、中国をはじめとした東アジア地域でも模倣されました。
《ラスター彩人物文鳥首水注》イラン 12〜13世紀 出光美術館
最後に展示されているのは、古代中国の宝物として、また芸術品としても重んじられてきた青銅器。中国文明を代表する青銅容器は紀元前1800年頃から作られはじめ、商(殷)・周時代には数々の作品が生まれました。
《饕餮文兕觥》の兕觥(じこう)とは、全体が怪獣形をした蓋付の匜形(いがた)の容器のこと。大きな角と耳で牙をむき出しにした表情ですが、どことなくユーモラスさも感じられます。
《饕餮文兕觥》中国 西周時代 出光美術館
本展は「出光美術館の軌跡 ここから、さきへ」をテーマに開催されるコレクション展の第1弾。第2弾は波山、放菴、ルオー、第3弾は日本・東洋陶磁、そして最後の第4弾には国宝《伴大納言絵巻》や伊藤若冲《鳥獣花木図屏風》などが登場します。
それぞれ、会期最初の1週間は「学生フリーDays」として高校生、大学生、大学院生、各種専門学校生、予備校生は入館無料という太っ腹な企画も実施されます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年4月23日 ]