貴金属や宝石を中心につくられるジュエリーに対し、それらの制約から離れ、デザインを重視してつくられるコスチュームジュエリー。ポール・ポワレやシャネルらの活躍により、パリのモード界からアメリカへ、そして世界へと広まっていきました。
本展は、コスチュームジュエリーの世界を包括的に紹介する日本で初めての展覧会です。パナソニック汐留美術館に、国内随一のコレクションから厳選された400点あまりの名品が並びます。
パナソニック汐留美術館「コスチュームジュエリー 美の変革者たち」会場 第2章
展覧会は第1章「美の変革者たち」から。冒頭には展覧会のメインビジュアルでもある、ポール・ポワレ(1879-1944)がデザインした夜会用のマスクとブレスレットのセット“深海”が展示されています。
コルセットを廃止し、ゆったりしたラインの革命的なドレスを作った、ポール・ポワレ。1912年頃、自らデザインした新しいドレスにマッチさせるために、コスチュームジュエリーを最初に制作した先駆者です。
第1章「美の変革者たち」 ポール・ポワレ《夜会用マスク、ブレスレット“深海”》1919年
12歳で孤児となり、その後、手に職を付けるために引き取られた修道院で裁縫技術を培ったのがガブリエル(ココ)・シャネル(1883-1971)です。
27歳でパリに店を構え、帽子から洋服、香水と販路を広げ、「シャネルスーツ」や「リトル・ブラック・ドレス」など、多くのスタイルを確立しました。
シャネルがコスチュームジュエリーを手掛けたのは、1920年代からです。「富を誇示するもの」というジュエリーの概念を覆し、絶大な支持を得ました。
第1章「美の変革者たち」 シャネルによる作品の一部
シャネルと同時代を生き、ライバルとされるのがエルザ・スキャパレッリ(1890-1973)です。ポール・ポワレに類まれなセンスを見出されてパリで店を開き、幻想的で明るい色彩に満ちたデザインを生み出しました。
シャネルは自身を職人と公言していましたが、スキャパレッリは自身を芸術家であると考えていました。その考え方の違いは、コスチュームジュエリーにも現れています。
第1章「美の変革者たち」 スキャパレッリによるパガン・コレクションで発売された「葉」モチーフのネックレスとクリップ
第2章は「躍進した様式美」。大戦を挟んだ1920年代から1950年代にかけて、グランメゾンによるクチュールジュエリーは、大きく飛躍。さまざまな職人たちが競うようにジュエリーを生み出していきました。
リーン・ヴォートラン(1913-1997)は、代々続く金属鋳造職人の家に生まれ、ごく自然にコスチュームジュエリーの制作を始めていました。古代文明や詩、聖書などから着想した作品は、一点ずつ手作りされています。
第2章「躍進した様式美」 リーン・ヴォートランによる作品の一部
コッポラ・エ・トッポ社は、リダ・コッポラ(1915-1986)と兄ブルーノが設立。ヴェネチアンビーズ、トッレ・デル・グレコのコーラルなどイタリアの素材を好んで用い、作品は大胆で量感があるにもかかわらず、しなやかで身につける人に美しく寄り添うスタイルがあります。
1950年代から1960年代にかけて最盛期を迎えましたが、1986年リダの死後、閉鎖されました。
第2章「躍進した様式美」 コッポラ・エ・トッポによる作品の一部
第3章は「新世界のマスプロダクション」。ヨーロッパと異なり、アメリカには王侯貴族による宝飾品の文化が存在しないこともあり、コスチュームジュエリーは瞬く間に広まりました。
ミリアム・ハスケル (1899-1981)は、シャネルに憧れてアメリカで起業。ガラスビーズやシードパールで作られた葉や花びらを、一枚一枚、その重なり方まで表現するため、刺繍するようにワイヤーワークで縫い留めています。
第3章「新世界のマスプロダクション」 ミリアル・ハスケルによる作品の一部
トリファリは、グスタヴォ・トリファリ、レオ F. クラスマン、カール・フィシェルが1925年にアメリカで設立したコスチュームジュエリー・メーカーです。
ルーサイトや、独自に開発した「トリファニウム」という合金を用いて戦時下でも制作を持続。時流を巧みに表現したデザインで、アイゼンハワー大統領夫人など幅広い層を魅了しました。アメリカのコスチュームジュエリーの最大手メーカーでもあります。
第3章「新世界のマスプロダクション」 トリファリによる作品の一部
会場の終盤には、素材の多様性を紹介するコーナーも。コスチュームジュエリーには半貴石、メタル(銀、鉄、銅など)、木、貝殻などの天然素材だけなく、ガラスやプラスチックなどの人工素材も用いられます。
1850年代後半に発明されたプラスチックは、コスチュームジュエリーに大きな可能性を与えました。軽量かつ安価で、ありとあらゆるデザインが可能。表現の幅は大きく広がりました。
第3章「新世界のマスプロダクション」 「素材の多様性」の展示ケース
さまざまなデザインをお楽しみいただける、とても華やかな展覧会です。会場最後のケネス・ジェイ・レーンとアイゼンバーグ&サンズの作品は、一般の方も撮影が可能です。
展覧会はパナソニック汐留美術館から始まって、2025年まで全国各地を巡回する予定です。会場と会期はこちらです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年10月6日 ]