地球上のあらゆる生命のみなもとである「海」。様々な物質とエネルギーを運び、生態系を育成する海から、私たちはめぐみを享受し、繁栄してきました。
海の誕生から現在までを俯瞰し、多様な生物や人と海の関わりを紹介。さらに、今後の人類と海との関わりについて、あるべき姿を考えていく展覧会が、国立科学博物館で開催中です。
国立科学博物館 特別展「海 ―生命のみなもと―」会場
第1章は「海と生命のはじまり」。海の展覧会ですが、冒頭は意外にも小惑星リュウグウからスタートします。「はやぶさ2」が持ち帰ったサンプルに含まれる鉱物の多くは、水の存在下で形成されていました。
太陽系の初期に存在していた微惑星が内包していた水が、惑星形成後に吐き出され、大気の水蒸気となり、やがて海になったことを想像させます。
第1章「海と生命のはじまり」[リュウグウのサンプルからわかってきたこと]
先カンブリア時代の終わりごろになると、海には大型の多細胞生物が現れてました。なかでも動物のなかまは、海の中で著しく多様化しました。
私たちヒトを含む四肢動物は、デボン紀に肉鰭(にくき)類から進化しました。4本のあしは、祖先がもっていた肉質の鰭(ひれ)から進化したものです。
第1章「海と生命のはじまり」[水中で起こった私たちの祖先の進化]
第2章は「海と生き物のつながり」。四方を海に囲まれた日本の周辺には、世界最大規模の海流である南からの「黒潮」と、北からの「親潮」が流れ、さまざまな生態系が広がっています。
ほぼ同じ緯度と海岸線をもつ北米の西海岸や欧州の地中海と比べると、日本周辺の海では、生息する生物の種数が多いことが知られています。
「黒潮」の流域では、チョウチョウウオやベラなど、カラフルな種が多く生息しています。種類は多いものの、各種の個体数は少ないのが特徴です。
第2章「海と生き物のつながり」[黒潮の生態系 魚類]
一方、寒流の「親潮」には栄養塩や溶存酸素が多く含まれ、植物プランクトンや海藻類を育みます。
北方の魚類は種数は少なく、色彩や外形には多様性が見られませんが、各種の個体数が爆発的に多くなります。
第2章「海と生き物のつながり」[親潮の生態系 魚類]
第3章は「海からのめぐみ」。私たちの祖先は数十万年前から海の貝を食べ、ホモ・サピエンスが世界中に広がると、各地で漁猟が行われるようになりました。
沖縄・サキタリ洞遺跡から見つかった貝製の釣り針は、約2万3000年前のもの。これは世界最古の釣り針です。
第3章「海からのめぐみ」 赤いシートの中央が、世界最古の釣り針
深海の調査は、古くはロープの先に網や筒を取り付けて海底まで下ろし、採取したものを調べていました。
海難救助、海中工事、科学調査などの目的で開発されたのが、無人探査機です。ケーブルで母線から電気を送り、映像を見ながら操作できます。
第3章「海からのめぐみ」[無人探査機 ハイパードルフィン](所蔵:海洋研究開発機構)
第4章は「海との共存、そして未来へ」。人類は海から多くのめぐみを享受して来ましたが、近年では私たち自身の活動による環境の変化が、海にも現れています。
ヨコヅナイワシは2016年に駿河湾最深部で採集された、セキトリイワシ科最大の魚類です。駿河湾最深部の生態系の頂点にたつ存在ですが、これまでに採集されているのは、わずか7個体だけです。
第4章「海との共存、そして未来へ」[ヨコヅナイワシ](所蔵:海洋研究開発機構)
海洋ゴミの影響は、鯨類にも深刻な被害をもたらしています。
鯨類はウシなどの反芻類と同様に胃が複数の部屋に分かれており、一度取り込まれた海洋ゴミが排出されにくいのです。
第4章「海との共存、そして未来へ」[クジラの胃内容物](所蔵:国立科学博物館)
慣用的に「海の藻屑になる」と表現するように、海は何でも受け入れる無尽蔵の存在のように思えますが、決してそうではありません。
健全な海を守るためには、私たちの意識の変化が求められています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年7月14日 ]