1994年にロンドンで設立されたデザイン集団、ヘザウィック・スタジオ。ニューヨーク、シンガポール、上海、香港など世界各地で革新的なプロジェクトを次々に発表し、世界中で大きな注目を集めています。
主要な作品28件を紹介する日本で初めての展覧会が、東京シティビューで開催中です。
東京シティビュー「ヘザウィック・スタジオ展:共感する建築」
会場は、ヘザウィック・スタジオが日本の暖簾や垂れ幕に着想を得たユニークな展示デザイン。6つのセクションに作品が並びます。
展覧会はセクション1「ひとつになる」から。上海万博の英国館を担当することになったヘザウィック・スタジオは、万博の出展パビリオンの上位5位に入るよう求められました。
彼らが考案したのが、光ファイバーの「毛」に包まれた「種の聖殿」。王立植物園キューガーデンのミレニアムシードバンクから着想したこのパビリオンは、万博最優秀賞であるパビリオン・デザイン部門の金賞を受賞しました。
《上海万博英国館》上海 2010年
セクション2は「みんなとつながる」。閉鎖的になりがちな空間を開き、人と人との出会いを促すような意匠が紹介されています。
カリフォルニア、マウンテンテンビューにおける《グーグル・ベイ・ビュー》は、ビャルケ・インゲルス・グループ・アーキテクトとの協働プロジェクトです。
電力を生成する太陽光発電パネルが、テントのように全体を包み込み、外部と内部の境界はあいまいです。キャノピーの下では人々が、さらに光や空気も自由に行き来できます。
《グーグル・ベイ・ビュー》カリフォルニア州マウンテン・ビュー 2022年
セクション3は「彫刻的空間を体感する」。彫刻的なかたちは、ヘザウィック・スタジオによるデザインの特徴といえます。
《海南舞台芸術センター》は、火山の風景と海南オペラの衣装、色彩、動きから着想しました。デザインを進めるにあたり、厳しいテストとデータ分析に加え、体験型かつ没入型のデジタルモデリングも取り入れられています。
《海南舞台芸術センター》中国 2020年(契約)
セクション4は「都市空間で自然を感じる」。マンハッタン南西の河岸に新しい遊歩桟橋を建てる設計コンペでは、ハドソン川から突き出た何百本もの古い木製の杭からイメージを膨らませました。
ヘザウィック・スタジオは、上部が巨大なプランター型の杭が連続するシステムを考案。プランターは異なる高さで繋がり、そこに誕生した新たな土地には、ニューヨークの気候に適した100種類以上の樹木が植えられ、美しい公園になりました。
《リトル・アイランド》2021年 ニューヨーク
セクション5は「記憶を未来へつなげる」。南アフリカ・ケープタウンの旧穀物倉庫を美術館にするプロジェクトでは、穀物を等級付けするタワーと、42個の密閉式貯蔵庫を解体せずに活用しました。
筒状のコンクリート群を内部から切り取り、コレクションの常設展示と企画展のための展示室に改築。等級付けに使われていたタワーは、コンクリート壁を取り払い、立体的な窓を設置しました。内部の照明により、夜には灯台のように輝きます。
《ツァイツ・アフリカ現代美術館》2017年 ケープタウン
最後のセクション6「遊ぶ、使う」には、彫刻作品のような椅子《スパン》が展示されており、実際に座ることができます。
人が座ると弧を描きながら360度回転するユニークな椅子で、52階からの東京の絶景をお楽しみいただけます。
《スパン》2007年 -(製造開始)
並んだ作品を見ると、有機的なフォルムを持ち、とても自由で伸びやか。これまで目にしたことがない数々の建築プランは、さほど詳しくない人でもウキウキしてしまうと思います。
実際の建築が見たいところですが、へザウィック・スタジオのプロジェクトは海外がほとんど。残念…と思いきや、日本における初めての作品「麻布台ヒルズ・低層部」が2023年に完成する予定です。楽しみにしたいと思います。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年3月16日 ]