2013年10月に、箱根小涌谷に開館した岡田美術館。全5階、約5,000㎡という大きな展示空間で、常時約450件もの日本と東洋の美術を紹介し、多くの美術ファンを集めてきました。
今年の10月でちょうど開館10周年となる岡田美術館では、1年を通して4人の個性豊かな画家を紹介する特別企画がスタート。第1弾は江戸時代の奇想奇技の画家・伊藤若冲と、昭和期の情熱の画家・田中一村です。
岡田美術館「若冲と一村 ― 時を越えてつながる ―」会場入口
展覧会は序章の「花鳥画の世界」から。3階の会場に入ると、金屏風の豪華な展示空間が広がります。
会場への動線としては、1階~2階の常設展示を鑑賞した後に3階の企画展、という流れ。自動ドアが開くと各階ごとに印象が異なり、いつ来てもワクワクする展示空間です。
序章「花鳥画の世界」
花鳥画は、本展の主役である伊藤若冲と田中一村も得意とし、多くの作品を残しています。日本における花鳥画は奈良時代から発展し、室町時代以降には盛んに描かれるようになりました。
進藤尚郁の《四季花鳥図屏風》を見ると、右側のツバキ・梅から、左側の菊・バラまで、季節の草花を描写。進藤尚郁は狩野常信の門人で、江戸時代に京都で活躍しました。
進藤尚郁《四季花鳥図屏風》江戸時代 元文2年(1737)
本展の主役は画家ですが、珍しいやきものもご紹介したいと思います。
《鳥文壺》は、肩の部分に愛らしい小鳥が彫り線で表された小壷。信楽焼は幾何学的な文様が多いので、鳥の表現はかなり異例です。特別な意図があったものなのかも知れません。
信楽窯《鳥文壺》室町時代 15世紀
続く「若冲と一村 その1 色あざやかな生きものたち」から、展覧会のメインである両者の作品が登場します。
若冲が着色の花鳥画を描いたのは、主に40代とその前後の時期です。《孔雀鳳凰図》は有名な《動植綵絵》の準備段階の作と考えられており、近年再発見された名品です。
重要美術品 伊藤若冲《孔雀鳳凰図》江戸時代 宝暦5年(1755)頃
そして、若冲といえばニワトリの作品です。《花卉雄鶏図》では、首と背のあたりのオレンジ色・白・黒が交じった羽は、絹地の裏側にも絵具を塗る「裏彩色」を用いています。
若冲は実際にニワトリを飼ってスケッチを重ねており、羽の光沢も、実際に見ているからこその表現。当作は、若冲が数え年40歳で隠居し、画業に専念する前の初期作です。
伊藤若冲《花卉雄鶏図》江戸時代中期 18世紀中頃
一方の一村が代表作を残したのは、奄美大島にいた晩年。一村は制作資金を得るために紬工場で働いた時期が長かったので、絵に専念したのは10年ほどです。
《白花と赤翡翠》にある赤い鳥は、一村がお気に入りだったと思われるカワセミ科の渡り鳥、アカショウビンです。細長く垂れるように描かれているのは、ガジュマルという木の根っこです。
(左奥から)田中一村《熱帯魚三種》昭和48年(1973) / 田中一村《白花と赤翡翠》昭和42年(1967) ©2023 Hiroshi Niiyama
続いて「若冲と一村 その2 墨絵の世界」。雪舟、狩野永徳、俵屋宗達など日本の優れた画家は、いずれも着彩画と墨絵の両方で優れた作品を残しています。若冲と一村もまた、双方の名手でした。
会場では、ムクドリ科の鳥である叭々鳥(ははちょう:ハッカチョウ)を描いた、伊藤若冲《月に叭々鳥》と田中一村《紅海棠に叭々鳥》(個人蔵)を、並べて展示しています。
叭々鳥は末広がりを意味するおめでたい鳥ですが、若冲は伝統的な描き方から離れて、降下の速さを強調した作品として制作。一村は、羽づくろいをする姿や、目やくちばしの色を丹念に捉えています。
伊藤若冲《月に叭々鳥》18世紀後半
最後は「若冲と一村 その3 同時代の画家・学んだ画家」。若冲と一村は、前者が江戸時代半ば、後者は明治末〜昭和と、活躍した時代は大きく異なりますが、同じ年頃に転機を迎えるなど、共通点も見られます。
多くの犬が描かれた作品は、円山応挙によるもの。応挙と若冲は同時期に京都で活躍し、写生を重視する点も共通していますが、直接の交流はなく、目指す絵も異なっていたようです。
円山応挙《群犬図》江戸時代 安永2年(1773)
4階では、特集展示として「生誕360年記念 尾形乾山」も開催中です。野々村仁清から作陶を学び、37歳で京都北西の鳴滝に窯を開いた尾形乾山。50歳になると商業の中心地・二条丁子屋町に拠点を移し、生産量を増やしていきました。
重要文化財《色絵竜田川文透彫反鉢》も、二条丁子屋町に窯を移した後につくられた鉢です。紅葉の名所、竜田川を表しており、葉や枝の間には透かし彫り。文様と形が見事に調和しています。
重要文化財 尾形乾山《色絵竜田川文透彫反鉢》江戸時代中期 18世紀
乾山は69歲の頃に江戸に下向し、上野の寛永寺近くの入谷に住んだと言われています。入谷ではやきものだけでなく、絵も積極的に制作しました。
《夕顔・楓図》は夕暮れ時をテーマに、夏の夕顔と秋の楓を描いた対幅です。丸みを帯びた花や葉の形には、乾山らしい特徴が良く現れています。
尾形乾山《夕顔・楓図》江戸時代 元文5年(1740)頃
岡田美術館がオープンしてからの10年間は、2019年の台風による大雨で箱根登山鉄道が運休したり、コロナ禍で観光客が激減したりと、激動の時期もありましたが、ここにきてようやく通常モードに戻りつつあり、箱根の駅には外国人の姿も目にするようになりました。
10周年展の特別企画として、誕生日当日の方と同伴者1名までの入館料が無料となる「10周年の感謝を込めて お誕生日ペア特別ご招待」も実施中です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年12月27日 ]
※作品は全て岡田美術館収蔵